「42℃での入浴で起こる不思議な体内変化」
ちょい熱の42℃の湯に浸かったとき、体に何が起こっているのでしょうか? 38℃と42℃の2ケースで実験を行いました。38℃では入浴直後から血圧が低下したのに対し、42℃では、反対に血圧が上昇しました。これを「驚(きょう)がく反応」と言います。
驚がく反応はなぜ起こる?
驚がく反応は、目安として42℃以上の熱い湯に入った直後に起こります(ただし、驚がく反応を起こす温度には個人差があります)。湯に入った直後、体が熱さにびっくりして末梢の血管が収縮、血圧が上がります。これが引き金となり、脳卒中や心筋梗塞が起こることもあります。
しかし、これらは入浴事故による死因の1割程度です。
42℃での入浴で血圧はどうなるか?
驚がく反応を起こすと、血圧は上がった後、今度は下がり始めます。実験では、血圧は入浴してから8分後まで、ずっと下がり続けました。38℃での入浴との血圧(最高血圧)の差は、最終的にはおよそ20にもなりました。42℃での入浴は、血圧を異常なまでに低下させてしまうのです。
42℃で血圧が下がりすぎてしまう理由は2つあります。
- 驚がく反応による反動。いったん血圧が上がると、人間の体は習性として血圧を下げようと働きます。このとき、血圧を下げすぎてしまうことがあります。
- 42℃で入浴したとき、体は真っ赤になります。これは皮膚の近くの血管が大きく開き、血液が集まっている証拠です。末梢の血管が開くと、血液が体の隅々まで流れやすくなるため、血圧が下がります。
血圧が下がりすぎた結果、何が起こるのか?
「異常な血圧低下」が起こると、脳に血液が行きにくくなり、意識障害(失神)が起こる可能性が高くなります。最初は気持ちいいのぼせ感が、やがて意識障害になるおそれがあるのです。「気持ちよくて風呂で寝てしまった」というのは、以上のことが原因という場合もあります。
※最高血圧が100を切ると意識障害が起こる可能性があります
“謎の溺死”の正体!
謎の溺死には、この意識障害が大きく関わっていると考えられます。意識を失った状態で、肺に少量の水が入ったことが引き金となって、そのショックで心臓が止まる……これが「謎の溺死」の正体です。1年間に1万人がこの「謎の溺死」で亡くなっていると考えられています。
専門家の解説「入浴事故を防ぐには?」
まとめると、入浴死のリスクが特に高いのは、以下の人たちです。
- 熱い風呂が大好きな人(驚がく反応等の結果、血圧低下を起こしやすい)
- 動脈硬化のある人(血管にしなやかさがないため、血圧が急上昇・急降下しやすい)
- 高血圧の人(元々血圧が高い人ほど、下がるときの幅も大きい)
- 65歳以上(動脈硬化、高血圧になっている割合が高い)
- 飲酒後に入浴する人(飲酒や食事のあとは、血圧が下がっている)
以上のことから、入浴事故を防ぐには、次のことに注意してください。
- 湯温を40℃以下(驚がく反応を起こさない目安。ただし個人差があります)
- 風呂から立ち上がるときはゆっくりと(急に立ち上がることでも血圧が急激に低下)
- 食後1時間以内の入浴は避ける。
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