今ここに居ない君へ
※他作品キャラというか設定がコラボしたちょっと異色作です。
全世界中継で臆することなく父帝の弑逆を告白し、神聖ブリタニア帝国第九十九代皇帝の座を強引に奪い取って、皇宮の主となったルルーシュを待っていたのは一人の青年だった。
「あんたが今度の俺の上司ってわけだ」
若干十八歳でしかも学生服を身に纏ったままの皇帝陛下など前代未聞だろうに、目の前の青年は屈託なくルルーシュを上司と仰ぐ。
だがルルーシュを指して上司と言うからには、彼はルルーシュの部下であり臣下であろうに、そこに敬意の念はあまりない。
ざっくばらんに話しかけてくる青年の容姿は、短く刈り込んだ金髪に瞳は緑眼でやや太い眉が男らしさと強い意思の力を主張している。身長も体格もごく平均的だ。ようするにこの国の国民性を平均化し、象徴する存在。
「お前が『神聖ブリタニア帝国』か」
一国に一人だけいる『国』の化身。その国の国民性を端的に表し、国の勃興と共に生まれ国の滅亡とともに消えていく存在。
話には聞いていたが、ルルーシュはブリタニアに会うのは初めてだった。国の化身に関われるのは、彼らが『上司』と呼ぶ国の為政者とその周辺に限られており、皇宮育ちとはいえ子供の頃のルルーシュは彼に会うことなくこの国を去った。
最近まで居た日本では、ブリタニアに滅ぼされたことにより国の化身が消滅してしまっていた。合衆国日本が建国されたことでそれらしい存在が蓬莱島の近辺で時折確認されてはいたが、国民が百万人程度のまだ先行き不安な国家なせいで存在の力が足りないらしく、ゼロであったルルーシュは結局会えずじまいに終わった。
中華連邦の化身には少しだけ会ったが、背中にパンダを背負ったマイペースな奴で、一方的に酔蟹を三千元で売りつけようとしてくるのには参った。
だから国の化身とじっくり話すのはこれが初めてだった。
そんなルルーシュに呼びかけてくるブリタニアの声は、あの懐かしい学園に今も居るであろう悪友にどこか似ていて、彼に対する印象は悪いものではない。だが…。
「まあ、これからよろしくな」
そうぶっきらぼうに言って手を差し出すブリタニアに、ルルーシュは応えること無く淡々と告げた。
「残念だが俺には『これから』と言えるほど時間はない」
「…どういうことだ?」
「俺の治世はひどく短いということさ。そのくせ思う存分この国をひっかきまわしてやるつもりだ。ところでやはり国の化身というからには、国土が荒れたら体調も悪くなるものなのか?」
ルルーシュの素朴な疑問に、ブリタニアは素直に答えた。
「ああ…経済がひどく悪化して不況とかになったら風邪や肺炎になるし、内戦とかになったら頭痛がひどくて機嫌が悪くなる。昔、ここじゃなくてブリテン島に居た時なんかひどかったな。エディンバラの屈辱はまさに屈辱だったぜ…あのおフランスのキザ野郎に迎合する市民どもに責めたてられていた時なんか、頭が痛くて痛くて身体がバラバラになるかと思ったぜ。それでその時の上司のエリザベス三世が王政廃止宣言書に署名した瞬間に気が遠くなってさ…気がついたら新大陸に居た」
「ある意味、その時点でお前は一度消滅していたんじゃないか? 日本なんかそうらしいぞ。ブリタニアに負けてエリア11になった頃に日本は姿を消し、蓬莱島に合衆国日本が建国された辺りでそれらしい存在がまた確認されるようになったらしい」
「ふうん…そうか。俺はみんなの消滅を見送るばかりかと思っていたけれど、その前に俺は一度消滅していたのか。…それがあのおフランスのところのナポレオンのせいってのがまた業腹だが」
「話には聞いていたが本当にフランスが嫌いなんだな」
「当然だろう! 俺は国家の化身であり、国民感情の具現だ! 俺のフランス嫌いはブリタニア国民の平均的感情だ! しかしそのフランスも、先だってのEU戦役終結における休戦条約でブリタニアに割譲されて消滅したぜ! ざまーみろ! ブリタニアの白き死神の面目躍如! シュナイゼル宰相の政治的手腕様々だな! あのキザでスカした男女どっちでもOKな愛の狩人野郎の顔を、もう金輪際見ないかと思うとせいせいするぜ! ハハハハ…ハ…ハ…ハ…」
フランスの消滅を大仰に喜んでいたブリタニアだったが空元気だったようで、語尾が徐々に弱くなっていく。
国の化身は一国に一人だけだ。彼らと同じような存在は国の数だけしか存在せず、何十億と生まれてくる人間や他の生物とは全く違う存在である。
寿命が無く、国ある限り存在し続ける彼らにとって、数少ない国の化身に抱く同胞意識はルルーシュなどには計り知れないものがあるだろう。
しかし同胞意識を持ち慕い合うその一方で、国民感情にも左右される彼らはそれに操られるかのようにいがみ合い、時には砲火を交え殺し合う。
特に神聖ブリタニア帝国はシャルル皇帝の時代に急激に覇権主義に舵を切り、攻め滅ぼした国は十八を超える。自分の手で同胞を次々と消していった彼の心がわかる者はこの世界には一人たりとていないだろう。彼は人ではなく『国』なのだから。
「そういえばお前、治世が短いつもりの割には俺を引っ掻き回すとかなんとか言っていたが、何する気なんだ? 俺の身体なんだから大事にしてくれよ」
感傷に浸るような弱みを見せたくないのか、ブリタニアが話題をそらす。ルルーシュはそれに素っ気なく答えた。
「何。ちょっと世界を壊し、世界を創造するだけだ」
「それがちょっとかよ…だから何する気だよ」
「だからちょっと世界征服だ」
「なにいいぃぃ! パックス・ブリタニカかよ! 世界から『国』を全部消す気か!」
「ああ…そういえばそういうことになるんだな。そういえば一度植民地にしても、エリアを解放したらどうなるんだろう? 蓬莱島に出現しかけている日本みたいにまた復活するんだろうか? それに超合衆国連合の化身には結局会ったことはないが、やっぱりいるんだろうか? 連合を利用する形で世界征服するつもりなんだが、その場合国の化身はどういうことになるかわかるか?」
「そんなの俺に聞かれても知らねえよ! というかなんだよ! 世界征服するとか言ったり、植民地解放するとか言ったり、いったいどっちだ! 何がしたいんだ、お前! こんなわけのわかんねえ上司初めてだ!」
上司と言いつつ、敬う気は微塵もないブリタニアは遠慮会釈無しにルルーシュに全力で疑問を叩きつけた。
いきり立つブリタニアに構わず、ルルーシュはまるで人ごとのように言い切った。
「何、簡単な話だ。世界征服した後で俺が死んで植民地が解放される。それだけの話だ。そうなれば全ての悪事は俺一人の責任となり、もう誰も憎しみ合わない」
「…え」
「だから俺の治世は短いものとなるだろう」
自分の命の終わりを見据えた上で端的に言い切るルルーシュに、ブリタニアは言葉を失った。
「なんなんだよお前…皇帝になったのにもう死ぬ気なのか? そんな皇帝なんて見たこと無いぞ。みんな玉座についたら少しでも長く権力にしがみ付こうとするやつばっかりで、ましてや最初から領土を手放す気で戦争やるやつなんて皆無だったぞ。お前、それでいいのかよ?」
「ああ」
力強く簡潔にルルーシュは答える。その声音に揺るぎない覚悟を見て、ブリタニアはもう何も言えなくなった。
「そうか…」
「すまないな」
「なんでお前が謝るんだよ」
「植民地が解放されれば国土が減ることになる」
国土はすなわちブリタニアにとっての身体だ。身体が削られていい思いはすまい。
「ああ、そういうことか。まあダイエットだと思えばいいさ。随分すっきりするだろうよ」
「ダイエットで済めばいいが、もしかしたら国の体制それ自体が変わる可能性もある。俺が死んだ後の話だから完全な予測はできないし、どうすることもできない。そうなればもしかしたらお前も…」
消滅してしまうかもしれない、という懸念をルルーシュが示したが、ブリタニアは静かに微笑んでそれを受け入れた。
「俺は『国』だ。古今東西永遠に栄えた国なんて無かったし、滅びなかった国は無い。あれほどの栄華を誇ったローマ帝国も姿を消し、ゲルマンも居なくなり、神聖ローマも消えていった。その他にもあまたの国が消滅していった。それはいくつも国を滅ぼしてきた俺が一番よく知っている。そして俺にもその順番が回ってきた、それだけのことさ」
「ブリタニア…」
「それに…俺の本来の居場所はここじゃない。俺の故郷はブリテン島なんだ。でも、あのトラファルガーの敗戦があって…女王と共に新大陸に落ちのびた。その時尽力してくれたお前の先祖のリカルド・ヴァン・ブリタニアには感謝している。でも…俺が新大陸に来たことであの子は…完全に消滅してしまった…」
「あの子?」
「俺たち欧州の国々が新大陸を認識した時に生まれた子だ。まだ小さくて国としての名前も無かった。でも『国』として育つ可能性を秘めていた。色白で金髪で可愛い子だった。俺とフランスでどっちの弟にするかよく喧嘩したもんだよ。あいつが俺を兄貴として選んでくれた時は嬉しかったな…。なのに、俺は独立したいっていうあいつの願いをワシントンの反乱を鎮圧することで押し潰し、揚句の果てにこっちに遷都することであいつを消しちまった…!」
「それは…お前のせいじゃない」
思いのほか苦悩するブリタニアにルルーシュは驚き、彼を宥めようと試みる。その新大陸の子はブリタニアにとってそれほど思い入れ深いものだったのか。
「…俺のせいだよ。間違いなく俺のせいだ。…なあ、エリアが解放されたら国の化身が復活するかもしれないって言っていたよな。だったら、俺が消滅したら代わりにあの子がまた生まれてくるんだろうか…?」
「さあ…国の化身のことは俺にもよくわからない」
「そうなるといいな…俺が消滅して、あのいけすかねえワイン野郎やトマト好きの騒がしいスペインやらが復活するのはイラつくけど、あの子がもう一度生まれてくるといい。こんどはちゃんと名前がついて、若くて勢いがあって元気な国に育つといいな」
ファストフード好きのメタボでヒーロー願望のあるお調子者に育つような気もしたが、ブリタニアは一瞬見えたその白昼夢を黙殺した。
苦笑いするブリタニアをルルーシュがどう思ったのか、労わるように声をかけてくる。
「お前はそれでいいのか? 多くの『国』が復活しても、その輪の中にお前は入れない」
「お前だって似たような状況だろうが」
世界中から悪と罵られて死ぬつもりのくせに、それでも自分が世界を作ったのだと満足して死んでいくつもりのルルーシュを軽く揶揄する。
「だったらそれでいいさ。自国を滅ぼすつもりで玉座に座った皇帝を上司に持った国なんて古今東西俺だけだぜ。お前と一緒に消滅できるのならそれも一興だ」
「…ブリタニア」
自分一人だけのことだと思ったのに、人ではないとはいえ人格化された存在を巻き添えにすることに、ルルーシュは恐れを抱いた。
「そんな顔すんなって。さっきも言ったろう? 滅ばない国なんてないって。いつかは訪れる終焉ならば、いっそド派手な方がいい。お前の計画は結構気に入った。最後まで付き合ってやるよ。だからそれまでの短い間よろしくな」
そう言って、ブリタニアはあらためてルルーシュに手を差し出した。今度はルルーシュもその手を取り、固い決意と契約を交わし合う。
自分達の終焉とともに、新たなる世界が生まれるだろう。レクイエムの歌に乗せて、今はここに居ないあの子が再び生まれ来る。
名前もなかったあの子。短い間しか一緒に居られなかったあの子。本当なら数百年の腐れ縁が続いていただろうあの子。こことは違う世界では、お互い違う名前でそれでも一緒に居られただろうあの子。俺の存在と引き換えに、再びこの世界に生を受けるといい。自分はそれを見届けることはできないけれど。
レクイエムの歌に乗せ、今ここに居ない君へ、ハッピーバースデーの歌を贈ろう。
(あとがき)何このコードギアスの皮を被ったヘタリア二次創作。しかもなんか英→米っぽいし。腐臭がただよっているけど一応CPなしに分類しました。
とりあえずキッ●ステーション放送中止記念作品とか適当なこと言ってみる。
ヘタリアは原作は読んでいますが、同人誌とかはそんなに買うほうでもないです。
でも冬コミで、いつも買いに行くサークルさんがヘタリア本を出されていたので思わず購入しました。
英国を軸にした話が多かったので、英国の孤独にちょっぴり萌えました。
名誉ある孤立とか英米独立戦争とか英国は結構おいしい設定持ってますね。
それで英国みたいにブリタニアも擬人化して、ルルーシュと会話したら面白そうだなと思いついて書いたのが今回のお話です。
ヘタリアではイギリス役をリヴァルの中の人がやっているので、ブリタニアの声もリヴァルに声が似ているという設定になります。
大好きな国擬人化漫画が…
そうなんですよね~リヴァルの中の人なんですよね、英国は
ちなみに一番好きなのは貴族なお方だったりもします。お馬鹿さんとか言われたい(聞いてない)
アニメ中止に涙が止まりませんでしたよ
この話だとリヴァルの中の人に似てる人になるんですよね。
ちょっと大人っぽくてがっちりしてる感じでしょうか?(ドイツぐらい?)
そして本田さん(日本)は彼を子どもっぽくした感じになりそうな…
とかちょっと想像してみました。
投稿 花 | 2009/01/28 01:37
水上さん、こんばんは。
泣かされました、涙返してください…というのは冗談として、ほろりときましたよ今回のSS。
ヘタリアの国同士のばか騒ぎが結構好きなので、ギアス×ヘタリア創作が来てうれしいです。ブリタニアの思い切りの良さもブリタニアの特性だといい・・ですが、たぶん国として生まれ「もの」特有の達観さ、でしょうね。
しかし、何となくブリタニアの「これが俺の順番が回ってきた」というセリフにルルーシュの名言「撃っていいのは撃たれる覚悟のある奴だけだ」を思い出しました。ブリタニア結構覚悟がいいな。
英→米ににやりしました。
というのは、「復活の日」→「さよならジュピター」→「結晶時間」→「後日談のようなもの」を思い出しました。
あの流れだと、ブリタニアは滅び、アメリカが生まれましたね。しかし今度のアメリカ、ブリタニアの血を引くというか、国民は元ブリタニアそのものだから、まさに一体的な関係。(まあ、さすが関係ないでしょうが、思い出してししようがない)
人が死んでもうまれかわって、国が滅んでもまた生まれてくる、こういう流れを思うと不思議と悲しい気持ちよりはとてもおおらかな気持ちになります。
投稿 AIZ | 2009/01/26 22:24