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2008/12/22

異人殺し

※ 他作品キャラがコラボ出演のちょっと異色作…

※ 騎士団に厳しめかも

 

 

 

黒の騎士団の旗艦・斑鳩の四番倉庫に置いて、一つの事件が発生した。

神聖ブリタニア帝国宰相シュナイゼルの甘言に惑わされた騎士団員たちが、ゼロを粛清しようとその銃口を向けたのである。

 

「撃てっ!」

 

一斉にその銃口が火を噴いたが、銃弾は見えない壁にでも阻まれたかのように全て弾き飛ばされた。

 

「何っ!?」

 

摩訶不思議な出来事にその場の全員が目を見張ると、ルルーシュの目の前に白く大きな犬が突如として現れ、騎士団員たちからルルーシュを庇うように立ちはだかっていた。

 

ガウ、グルルと唸り、騎士団員達を威嚇するその白い犬にルルーシュは見覚えがあった。

 

「…アマテラス?」

 

それはルルーシュが枢木神社の土蔵で暮らしていた頃、時々現れてはルルーシュと遊んでくれた不思議な白い犬、いや狼だった。

 

スザクや神楽耶からそれは神様だと聞かされたが、神様らしい威厳は少しもなかった。それでも不思議な力でいつも助けてくれたり遊んでくれたりと、ルルーシュはそれが神様であることを少しずつ信じるようになっていった。

 

アッシュフォードに引き取られた後も時々姿を見せたことはあったが、最近は全く会っていない。子供好きだと聞いていたから、もう自分が子供ではなくなったせいだろうと思っていた。

 

それなのに、今突然この場に現れたことに、ルルーシュはただ呆然となる。

 

「怯むな! 犬ごと撃てっ!」

「待ってくれ!」

 

再度発砲命令が出されたことに、アマテラスまで撃たれてしまうと、ルルーシュは逆にアマテラスを庇おうと前に飛び出しかける。

 

しかし、それら全てを遮る声が倉庫内に響いた。

 

「お待ちなさいっ!」

 

凛とした女性の声が皆の耳に届き、声のする方向に一斉に視線が集まった。

そこに立っていたのは、キュウシュウ方面軍と行動を共にしていたはずの神楽耶だった。

 

「か…神楽耶様…どうしてここに…」

 

神楽耶を招請した覚えもなければ、休戦状態からさほどの時間も経っていないのに、九州からこの東京上空の斑鳩にまですぐに来られるわけもなく、心当たりの全くない騎士団達は意外な人物の登場に戸惑った。

 

神楽耶は彼らのそんな疑問を一蹴するかのように簡潔に答えた。

 

「もちろん、こちらのアマテラス様とともに参りましたのよ」

 

ルルーシュの前に立ちはだかる白い犬を軽く指し示し、しかも様付きで呼びかける神楽耶に、騎士団員達の困惑はますます深まった。

 

そんな彼らの困惑など知らぬげに、神楽耶は当然のようにアマテラスとともにルルーシュと騎士団員達の前に立ち塞がる。

 

「か、神楽耶様! 危険です、その男は!」

 

騎士団幹部達が制止するも、神楽耶はそんな彼らに冷たい一瞥を投げかける。

 

「お黙りなさいっ! 彼が何ですと? 一体何が危険だと? 馬鹿馬鹿しい! 彼が何者であろうと、何を考えていようと、このルルーシュ・ヴィ・ブリタニア様は、天照大御神の愛ぐし児にあられるぞ! 六家筆頭、皇家の嫡子としてこの神楽耶は、その存在を尊び敬うことこそあれ、銃を向けお命を奪うようなことなど致しません! さあお前たちも銃を収めるのです!」

 

「し…しかし…」

 

「私の命令が聞けないというのですか? ならば私もろとも撃つ覚悟はあるのですか? そして日本の最高神、天照大御神にも弓引く覚悟あってのことか!?」

 

目の前の白い犬が神だと言われて、ますます騎士団員達は混乱し、いったいどうすればよいのかと視線をさ迷わせる。

このままではいけないと、焦れた扇が神楽耶を説得しようと呼びかける。

 

「神楽耶様! その男はギアスという超常の力を操るペテン師なんです! 今だってあなたは惑わされているに決まっている! そんな犬っころが神様だなんてバカバカしい!」

 

アマテラスが好んでこの姿をしている以上、犬扱いされるのはいつものこととは言え、この緊迫した場面で大神を侮辱されたことに、神楽耶は顔には出さずとも心底不愉快になった。

 

「ほお…。この神楽耶がたばかられていると申すのですか。では逆に聞きますが扇事務総長、その『ギアス』なるものの存在をあなたに教えたのは誰です?」

 

「それはあちらのシュナイゼル宰相閣下が…。それにゼロを渡せば、日本は戻ってくるんです!」

 

日本という成果が得られるのだということを強調し、ゼロを裏切る後ろめたさを隠そうとする扇の姑息さに、ますます神楽耶は不快感を募らせた。

 

「小人というのはまさに度し難いものですわね。敵国の宰相に何を吹き込まれたのかは知りませんが、ギアスのことにせよ日本返還の口約束にせよ、それをそのまま鵜呑みにするなど馬鹿げています。しかもなんです? 日本を取り戻すため? いつ何時日本列島があなた方のものだったというのです! この豊葦原中つ国は神代の昔にイザナギイザナミが作り上げ、高天原より下りしスサノオが子孫・大国主が地を平げ、その大国主から天照大御神の命を受けた天孫が国を譲り受けてのち、天孫の子孫がこの地を治めてまいりました。言わばこの大日本豊秋津洲、大八洲は天照大御神の持ち物です。あなたたちはそこに間借りさせてもらっている程度の立場とわきまえなさい。己が身体の上を飛びまわる虫けらが、日本人だろうとブリタニア人だろうと大神には些細な違いでしかない。どの民族が日本列島を闊歩していようが関係ありません。しかしその大御神を犬ころと嘲り、その愛ぐし児を殺害せしめようとするならば話は別です。そのような者がこの日の本で生きていけるとお思いか? 今すぐその心の臓を止めて死んで詫びるか、この日本列島から出ていき、二度と戻ってくるでないわ!」

 

「なっ…! 神楽耶様! イザナギだのイザナミだの、お伽噺を真に受けてどうするんです! 日本は俺たち日本人のものでしょう!」

 

「お黙りなさい! 古事記と日本書紀は公式にも日本の歴史書ということになっております。お伽噺などではありません。ましてや六家の者はみな、ちゃんと天照大御神が現実におわしますことを知っておりました。そうでなければ日本を束ねることなどできません」

 

双方の会話はどこまでも平行線だった。神話を神話としか捉えられない一般人と、神話が現実であると知っている選ばれし血脈の者とでは噛み合うわけもない。

 

「もういいですわ。これ以上話しても無駄なようですから…アマテラス様」

 

神楽耶は扇から顔を背け、アマテラスに向き直ると投げやりに言い捨てた。

 

「この愚か者どもがこう言うのですから、秋津島はこの者たちにくれてやって下さい。どのように渡すかは大御神のご随意に」

 

神楽耶に声をかけられて、今までルルーシュを守るようにその傍にぴったり寄り添っていたアマテラスは彼から少し離れ、二、三歩ほど前に出た。

 

そして背筋を伸ばし首を擡げると、高く遠くどこまでも響き渡る大きな遠吠えを上げた。それが合図だったかのように、アマテラスを起点として力強い波動と空気の流れが放射線上に広がっていく。

 

その衝撃波の勢いに、四番倉庫に集っていた面々は一様に身体をぐらつかせたが、それも一瞬のことでまた倉庫には静けさが戻った。

 

「…な、なんだったんだ? 今の?」

 

何か強い力が通り過ぎて行ったように感じたが、自分たちにも周りにも何の異変もない。戸惑い疑問符を飛ばしているうちに、斑鳩の艦橋から泡を食ったようにせき込んだ通信がもたらされた。

 

「た、大変です! 扇事務総長! 藤堂統合幕僚長! トウキョウ租界が…いや…日本が…!」

「どうした! 何があった!」

 

艦橋からの通信を受けて、携帯端末の画面で確認を取る。そこに次々と映し出されたのは変わり果てた日本列島の姿だった。

 

黒雲のような瘴気が噴き出し、日本中どこかしこにも渦を巻き地を覆っていた。光は閉ざされ、草木は枯れ果て、活力が根こそぎ奪われていっている。

 

見るからに禍々しい光景が、それも日本中の至るところに余すところなく現れていた。

 

「な…何なんだ…これは…っ!」

 

山紫水明、水清き緑豊かだった日本の姿は見る影もない。

 

「まさか…『大神降ろし』を逆回しにしたのか…?」

 

騎士団員達と共に日本中を覆う異変を確認したルルーシュが、かつてアマテラスによって何度も見せられた奇跡の技と照らし合わせ驚愕の色を露わにした。

 

自然の力を操ることのできるアマテラスならば、浄化の力を逆回転させれば日本中を瘴気まみれにすることさえも容易い。

 

しかしどこか抜けていてあの心優しい大神が、ここまで無慈悲に残酷なことができるなんて思ってもみなかった。

 

呆然となるルルーシュをよそに、神楽耶はくすくすと笑っていた。

 

「さあ、騎士団の皆さま。ありのままの日本列島をお渡ししますわ。神の御業を、その恩寵を失うことがどういうことかおわかりいただけたかしら? 日の光のささない、地の恵みの無い、風のそよぎも無い、清き水など一滴も湧いてこない大地で暮らせるものなら暮らしてみるがいい。ああ、富士の霊峰に眠る宝の石・サクラダイトも既にただの石くれとなり果てていましょうから、輸入で生きていこうとしても無駄ですわよ」

 

無邪気なまでに残酷な神楽耶の宣言を聞かされて、扇はわなわなと唇を震わせている。

 

「何が神だ…っ! こんな、こんなひどいことが…っ! その犬ころは神なんかじゃないっ! 悪魔だ!」

 

確かにアマテラスは妖怪相手に四つ足の白い悪魔と恐れられたことはあったが、恩知らずの人間如きにここまで罵られる言われはない。

 

機嫌を損ねているだろうアマテラスに代わって、神楽耶が朗々と述べる。

 

「あら。あなたは日本人のくせに神様を何だと思っていたんですの? 日本の神様なんて殆どが『祟り神』ですわよ。和魂と荒魂と言い表され、二面性があるのが日本の神々です。怒らせるとこれほど恐ろしく容赦のないものはありません。だからこそ先人たちは神々を祀り敬い、どうか祟らないでくれと必死で祈りを捧げてきたのです。その祈りの積み重ねによって、この日本はここまで神の恩寵厚い豊かな恵みを享受できていたのに、その先人の功績に胡坐をかき真実を見極める目を曇らせたあなた方に、もはや神の加護などありません。呪われし民、まつろわぬ者どもよ、どこへなりとも行くがよい。しかしどこに行こうとも、異国に逃げようとも、その身に降りかかった呪いからは生涯逃れられぬと心得よ。どれほど地を耕しても実りは無く、どれほど幸を求めても得られず、努力はむなしく空回りし、何の助けも救いも得られない。神の加護を無くすということはそういうことです」

 

神楽耶の痛烈な言葉は呪いとなって、その場の人々に刻みつけられる。そこに居るのは既に超合衆国連合最高評議会議長の神楽耶ではなく、アマテラスの代弁者、神聖性を備えた一人の巫女であった。

 

その厳粛な表情を一変させ、にこやかな笑顔で神楽耶はルルーシュの方を向いた。

 

「さ、ルルーシュ様。もうこのような者たちに構うことなどありませんわ。参りましょう」

 

死ぬ覚悟を固めていたところをアマテラスの乱入によって止められて、その後の怒涛の展開にすっかり毒気を抜かれたルルーシュは、神楽耶に手を引かれるがまま、為すがままに足を動かす。

 

「行くって…どこに…」

 

「どちらなりとも。高天原がよろしいか? それとも天岩戸にでも籠りましょうか? 竜宮などいかがです? 子供の頃、アマテラス様に連れられて一緒に参ったことを覚えていらっしゃいます?」

 

「あ…ああ…」

 

昔のことだったので、ルルーシュは夢のように思っていたが、やっぱり現実だったらしい。

 

「じゃあ決まりですわ。参りましょう」

 

神楽耶に手を引かれ、白い狼に先導され、誘われるがままにルルーシュはその場の人間から背を向けて、四番倉庫の闇の中に溶け込むように消えて行った。

 

騎士団員達が我に返った時には、神楽耶も白狼もルルーシュも斑鳩の艦内から忽然と消えていた。どのようにして出て行ったかの足取りさえつかめない。まさに『神隠し』という言葉がそのまま当てはまるような唐突な消え方であった。

 

残されたのは頭を失った烏合の衆と、見るも無残な様に変わり果てた日本列島。まさしく神楽耶が言霊として残したように、神の加護を失った呪われた土地となり果てていた。

 

日本から神は消え、その巫女は日本人に背を向けた。神とまで崇められ日本の希望となっていた男は、神の膝元へと連れ去られた。

 

率いてくれるリーダーを失い、目的を見失い、黒の騎士団は急速にその勢いを無くしていく。神の加護を失った彼らの前には、茫漠たる闇しか広がっていない。

 

 

 

暗い闇の中に、白く丸い影が見える。アマテラスだ。

 

闇の中で丸まって眠る大神の、フサフサした毛並みを優しく撫でる者がいた。長い金の髪を持つ月の民ウシワカである。

 

彼はアマテラスに静かに語りかけた。

 

「ねえ、アマテラス君。どうして君はルルーシュをそんなに気にかけるのかな?」

 

その問いにアマテラスは眠そうな顔をして、ワウ…と小さく唸るだけ。

 

「判っているよ…アマテラス君は待っているんだよね。流された兄上が、海の向こうから帰ってくるのを」

 

イザナギとイザナミが最初に生み出した子供。本当ならこの日の本の最高神であったであろう最初の一柱。

 

何かの不手際で不完全な形しか取れず、葦の小舟に入れられて、海の向こうへと消えて行った哀れな神。

 

―――ヒルコ

 

日の子という意味を持ち、本来ならば太陽神であったはずの神。アマテラスの別名・大日孁貴神(おおひるめのむちのかみ)の「ひるめ」という言葉からも明らかだ。

日の子と日の女と、本来ならばアマテラスと共に二柱で一つの神だった。

 

「親に捨てられた子供。海の彼方へと追いやられた子供。海の向こうから来た子供。寄り来る神――客人神、エビスだね」

 

エビスとは海の向こうから現れ、幸をもたらすが時に禍をももたらすこともある扱いの難しい神で、ヒルコの別の姿だとも言われている。

 

「ああ、確かにルルーシュは騎士団に取ってマレビトだったね。海の向こうのブリタニアからやってきて、彼らに力と勝利を与えてくれた。…だから、アマテラス君はルルーシュに兄上を見るのかい? 海の向こうに消えて行った兄上が戻ってきてくれたと?」

 

しかしルルーシュは神ではない。ただの人だ。

 

「だが『見立て』ということはできるかもね。同じ運命と性質を持つ者ならば、その身に神を降ろすこともできるかもしれない。彼を依り代にする気かい? アマテラス君」

 

さてね、と言いたげな瞳でアマテラスはまたあくびを一つすると、くるりと丸まって眠りへと誘われる

 

答えは、まだ見えない。

 

 

 

(あとがき)他作品キャラが顔を出すので、載せようかどうしようか迷っていましたが、よそ様のサイトを見ていたら時たまそういう作品もあるので、こういうのもありかな、とちょっと載せてみました。

 

元ネタはPS2ゲームの「大神」からですが、アマテラスという名前は普遍的なところもあるので、掲載に際して多少は抵抗が和らぎました。主にしゃべっていたのが神楽耶だったのも決め手だったりします。もうちょっとアマテラスが出張ってしまっていたら掲載を見合わせたかも。

 

騎士団の銃弾を弾き飛ばしたのは「一閃」という技。神楽耶ともどもいきなりあらわれたのは「霧飛」の技を使ったから。消えたのも同じ技です。

きっと斑鳩艦内と蓬莱島のどこかにひっそりと物実の大鏡が置いてあるのでしょう。

 

騎士団糾弾もので、理詰めで小一時間問い詰めるのはもうやりましたし、他のサイト様でも見かけますので、ちょっと異色作に挑戦してみました。

「神様に逆らうんじゃない」と理屈抜きな上に、ルルーシュが神様のお気に入り。というより神にされそうですよ。ディートハルトがゼロを神という記号にするのと違い、正真正銘本物の神ですよ。ひえー。

コメント

「大神」かぁ、神楽耶はずばりサクヤ代理ですね。ゲームは花火打ち上げることができずに停まってしまいましたが、映像も音楽も綺麗なゲームですよね。
ちょっと異色な騎士団糾弾ものですが、
本編でのルルーシュの、今までの功績や当時の世界における重要性も考慮せずに打ち棄てられるような扱いは、理詰めで憤慨するよりも、祭が終わったあとにはそれまで崇めていた神様ですらとっとと追いやる日本の宗教的民族性を表したエピソードと諦観してしまいそうになるくらい酷い話だったと今でも腹がたつので、こういうオチの付け方は有だと思います。
面白かったので、またこういったコラボも楽しみにしてますね。

いつも楽しく拝見させて頂いております。大神!ワンちゃん登場で直ぐにピンときました。しかし、このゲーム残念ながら未プレイ(中古屋になかなか出回りません)なので技名まではちょっと‥コラボ作品はいささか苦手なのですが、出張っていたのがカグヤ様だったので気にせず読みとおせました。コラボとはいえ、ストーリーの中心は本来の作品中のキャラクターであるべきだと思っていますので。これはこれで面白かったです。

アマテラスとはw大神はやってませんけど、
多少は知ってます。
予想外のクロスでした。

「見立て」とか聞くと甲田学人さんの小説思い出しますね。

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