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社説:村上被告判決 ファンドにも適切な規制を

 インサイダー取引で摘発された村上ファンド元代表の村上世彰被告への控訴審判決で、東京高裁は懲役2年の実刑とした1審判決を破棄し、懲役2年、執行猶予3年を言い渡した。

 この裁判では、さまざまな情報が行き交うビジネスの世界で交わされる情報について、何がインサイダー取引に抵触する情報であるのかが争点だった。

 ニッポン放送株の買収についてライブドアの宮内亮治元取締役が1審段階と違い、村上被告がライブドアから話を聞いた当時、買収資金の準備ができていなかったと証言した。

 1審では、実現可能性が全くない場合はインサイダー情報から除かれるものの、可能性があれば、その高低は問題にならないという判断を示した。

 しかし、M&A(企業の合併・買収)に関する情報が、どの段階までが単なるアイデアで、どこからが実現可能としてインサイダー情報となるのだろうか。それについて明確な線引きができるのか、難しい面があるのも事実だろう。

 厳密に解釈しすぎれば金融ビジネスに支障が出かねないとの声も出ていた。

 執行猶予になったのは、村上被告がはじめからインサイダー情報で利益を得ようとしていたわけではなく、現在は株式取引から身を引いているからのようだ。しかし、有罪であることに変わりはない。

 ライブドアによるニッポン放送株の大量取得は、村上被告が用意した舞台装置の中で行われ、それに乗じて村上ファンドは株式を売り抜け利益をあげていた。

 通産省(現経済産業省)出身の村上被告は、ルールをつくる側にいた。にもかかわらず、その投資手法は法制度のスキを突いたものだった。モラルの伴わない金もうけ至上主義が事件の背景にあったわけで、痛切な反省を求めたい。

 一方、金融危機を経てモラル欠如の弊害が指摘されている。原油や穀物価格の急騰と急落は、ファンドを中心に投機が過熱し、それがはじけた結果だ。米国ではファンドによる巨額詐欺事件も発覚している。

 投資の拡大は経済の活性化に不可欠の要素だ。だからといって、ファンドの活動を野放図に放置していいというものではないことは、現在の経済危機の原因を考えると明らかだ。

 また、企業が経営の規律を維持するうえで、市場からの監視が重要な役割を担っているとはいえ、短期的利益をめざすファンドの要求が、その企業と社会にとって有益であるとは必ずしも限らない。

 金融機関に対する監視・監督が世界的な課題となっている。投機の中心的存在だったファンドももちろん対象だ。

 村上被告への判決を、ファンドビジネスのあり方について改めて考える機会としたい。

毎日新聞 2009年2月4日 東京朝刊

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