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離婚後300日規定:「無戸籍の子」、裁判官が調停回避 別の家裁は「認知」

 離婚後300日以内に生まれた無戸籍の男児(0)と母親(32)が08年、前夫の関与なしで現夫の子とするための認知調停を試みたところ、東京家裁八王子支部では取り下げを迫られ、横浜家裁相模原支部では「現夫の子」と認められていたことが分かった。内容は同じなのに「申し立ての場所」によって対応が異なった形だ。認知調停については最高裁が同年6月からホームページで告知しているが、適用基準のあいまいさが浮かび上がった。【工藤哲】

 母親は04年に前夫と結婚したが、07年3月に別居。現夫と交際を始め、07年10月末に妊娠に気付いた。07年12月に離婚が成立し、08年6月に現夫と再婚。離婚後212日目の08年7月に出産した。

 母親は、別居期間などから前夫との結婚破綻(はたん)後に現夫との子を妊娠したのは明らかだと主張。前夫と連絡を取るのは精神的負担が重いとして、男児の代理人になり、同8月、現夫に認知を求める調停を東京家裁八王子支部に申し立てた。

 母親らによると、9月の1回目の調停でDNA鑑定業者への嘱託書が作られ、費用や日時が決まった。しかし、10月の2回目の調停直前に、裁判官から突然取り下げを求められた。「最終的には私の裁量」と言われ、代わりの手続きを示されることもなかったという。

 母親はその後、転居先に近い横浜家裁相模原支部に再び同じ調停を申し立てた。すると1回の調停で、前夫との結婚破綻後の妊娠だと判断され、12月にDNA鑑定なしで「現夫の子」と認められた。

 母親と現夫は「認めてもらえたことは感謝しているが、なぜ判断が違うのか。態度を覆した八王子支部の対応は理解に苦しむ」と話す。「無戸籍児家族の会」の井戸正枝事務局長は「最高裁の告知がきちんと行き届いていない」と指摘した。

 東京家裁総務課は八王子支部の判断について「プライバシーにかかわるので答えられない」としている。

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 ■解説

 ◇対応、判断にばらつき

 認知調停により戸籍に記載される無戸籍児の数は増えたが、こうした手続きだけでは限界があることを今回の事例は示した。

 法務省の推定によると、離婚後300日以内に生まれる子は年約2800人。うちおよそ9割は、現夫の子と認めてもらうために裁判上の何らかの手続きが必要な「離婚前の妊娠」とみられる。

 従来の手続きは、前夫も関与する「嫡出否認」や「親子関係不存在確認」だったが、新たに認知が加わり、前夫との破綻後の妊娠が明らかな場合、前夫の関与なしに現夫の子と認めることができるようになった。「無戸籍児家族の会」によると、無戸籍児を抱える家族が08年7月以降、全国の家裁に認知を申し立てた結果、27件中23件が認められた。

 ただこの時点ですでに、DNA鑑定の要求の有無など家裁による対応の違いが浮かび上がっていたという。

 最高裁は「別居や離婚の理由は個々で異なり、事情を基に判断する」と説明する。だが、判断に著しいばらつきがあれば、公平な手続きとは言えなくなる。最高裁や家裁は全国の認知の事例を把握・共有し、適用基準や運用上の統一を図る必要がある。併せて民法772条の「300日規定」の抜本的な改正についても真剣に検討すべきだ。

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 ■ことば

 ◇認知調停

 離婚後300日以内に生まれた子を「前夫の子」とする民法772条の規定を拒否し、戸籍を得られない「無戸籍児」の実態が社会問題化したことを受け、最高裁が08年6月からホームページで紹介している裁判手続き。「(前の)夫が長期海外出張、受刑、別居等で子の母との性的交渉がなかった場合など」において「子から実父(現夫)を相手とする認知請求の調停を申し立てる方法もある」と説明している。適用は文面上、裁判官の判断に委ねられる形になっている。

毎日新聞 2009年2月1日 東京朝刊

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