【科学】夢のiPS細胞 医療応用への道 <4>行政 迅速な審査体制を2009年2月3日 「米国は一年半で審査が終わるが、日本は五年かかる。この差は大きい」。昨年十二月の総合科学技術会議で山中伸弥京大教授はiPS細胞研究への政府の支援を要請。課題の一つとして薬や医療機器の審査体制を挙げ、迅速化を訴えた。 日本で新しい薬や技術が医療現場に届くまでの道筋は二つある。企業などが薬事法の規定内で「治験」と呼ばれる臨床試験を実施、厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)が審査・承認する方法。もう一つは大学病院のような研究機関が行う臨床研究だ。 米国の食品医薬品局(FDA)の審査・安全対策の人員は約三千人で、PMDAの審査員は二百七十七人(昨年十一月時点)。厚労省は二〇〇七年に五カ年戦略を策定。審査員を三年間で二百三十六人増やし、一一年度末までに新薬の市販までの期間を二年半縮めることを目指している。 日本で現在、人の細胞や組織を使った再生医療製品として認められているのは、大やけど患者の治療に使う培養皮膚のみ。バイオベンチャーの「ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング」(愛知県蒲郡市)が開発した。培養皮膚は米国で一九八七年に商品化されたが、日本で保険適用商品となったのは先月だ。 小沢洋介社長は、旧厚生省に確認申請してから販売までの約十年を「いばらの道だった」と評す。「資金の少ないベンチャーにとって時間イコール金。迅速化に向けて審査側も企業側も努力していく時期ではないか。当社では再生医療のノウハウを蓄積してきた。iPS細胞研究の実用化に向けても貢献していけたら」 再生医療バイオベンチャーの経営にも携わる中内啓光東大教授も「米国のように審査する行政担当官と開発者側が早い時期から実用化に向けて打ち合わせを始め、ケースごとの許認可や安全性の確認方法などを詰めることが必要」と話す。 一方、薬事法に基づかない研究機関での臨床研究は、機関によって質がばらつき国際的に評価されない、医薬品として承認を受けるにはあらためて治験をしなければならない−などの指摘がある。FDAでの審査官の経験も持つ川上浩司京大教授は「治験と臨床研究の一元化を進めていくべきだ。また、医薬や先端技術を推し進めるためには、医薬品などの安全性や有効性を評価・規制する科学も充実させていく必要がある」と改革を訴えている。 (この企画は、京都支局・芦原千晶、谷村卓哉、科学部・榊原智康が担当しました)
|