カルフールの店内のあちらこちらの商品棚や販促コーナーでは、若い女性販促スタッフが懸命に顧客に声をかけ、いろいろ新商品の試食や試飲を勧めている。着ぐるみのキャラクターなども子供たちを喜ばせている。 こうした店頭のイベントを中国で最初にやり始めたのもカルフールだった。店内のありとあらゆる場所をビジネスにしてしまったのである。 たとえば、メーカーがポスターを貼る柱の場所も、「目立つか」「目立たないか」などの基準を設け、掲示期間を勘案して、それぞれ値段を付けて売ってしまう。中国の小売業にありがちな「進場費」(場所代)や「開店記念費」など、商品とは直接関係のない費用をサプライヤーから集めており、これらを含めるとカルフールの中国での売上高の約36%を占めるともいわれている。 カルフールは単なる「モノを売る」ビジネスだけでなく、「場所」を売ることも大きなビジネスにしているのだ。 こうした場所にお金を支払うのはメーカーや販売代理店だが、店頭の販促イベントは専門業者が請け負うことが多い。専門用語で言えばフィールド・マーケティングの会社だ。特に、食品や雑貨などのコモディティー商品(快速消費財)の店頭イベントを請け負う代理店が多い。中国では、コモディティー商品こそ、店頭でのイベントの有無が売り上げに大きな影響を与えるのだ。 というのも、中国のお客は、店頭で商品を食べたり、飲んだり、また手に触れたりして、きちんと確認してから購入を決めることも多い。店頭でお客の心を捉えられるかどうかで、売れるか売れないかが決まることが多いからだ。 このようなフィールド・マーケティングのやり方は、カルフールによって中国に定着したといえる。今では、フィールド・マーケティングをうまくできない企業は中国では売れない。そして、こうした現場を見ていると、多くの日系企業が「店頭販売に弱い」という課題を抱えていることを痛感する。 販売の現場をきちんと把握しないと、どんなに膨大な調査項目をつくり、どんなに時間をかけて分析しても、急激に変化する中国の消費トレンドに追いつくことができない。大事なことは、消費者が何を欲しているかをスピーディにとらえて、スピーディに応えていくことである。
政治的な問題はさておき、あまり形にこだわらないフランス企業の気質がどうやら中国には合っているようにみえる。現場はなるべく中国人に任せ、店長からスタッフまで中国人で、仕事もすべてOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)で教える。広い中国は地域によって生活習慣や好みも違うからだ。中国人スタッフは自主性を持ってその地域に合った対応をしながら、楽しく働く仕組みをつくり上げてきた。 ただし、店員には日本のようにあいさつや笑顔をあまり強く求めていないようだ。「お客が来店するのは笑顔があるからじゃない。そこに買いたい商品があり、他より5%程度安いからだ」という合理的な発想なのだろうか。 とにかく来店客は買い物を楽しんでいるようだ。最近のカルフールは、液晶モニターを各売場に設置して、ますますレジャーランド化している。「場所を売る」ビジネスに長けているカルフールが中国で展開しているのは、いってみれば、都会のど真ん中にあるレジャー施設なのだ。
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