中国での外資系小売業のトップランナーといえば、フランス系のカルフール(中国名:家楽福)である。2007年の売上高は248億元となり、中国最大のスーパー・チェーンとなっている。日本での展開がうまくいかなかったことで有名なカルフールが、なぜ中国で大ブレイク?と不思議に思う日本人も多いかもしれない。 中国がWTO (世界貿易機関)加盟後に、流通分野における外資進出の規制を完全に解いたのは2004年末。実は、カルフールは、それより10年も早い1995年に中国に進出し全国で大掛かりな店舗展開に取り組んできた。 カルフールが進出する前、中国には百貨店はあっても、スーパーマーケットと言える業態はなかった。スーパーマーケットという業態は、事実上、カルフールの進出によって誕生したのである。スーパーマーケットは中国語で「超市」と呼ぶが、中国人に「超市」のことを聞けば、10人中9人がまず「家楽福(カルフール)」を挙げる。カルフール自体が中国では、スーパーマーケットのデファクトスタンダード(業界標準)になったのだ。これこそ、カルフールが中国で成功した最大要因ともいえる。どんな業界でも、デファクトスタンダードになれば、企業が優位性を確保しやすいからだ。 カルフールに続いて、1996年には米国のウォルマート(沃爾瑪)、さらに、東南アジア系のロータス(易初連花)や台湾系の「大潤発」など、さまざまなスーパーマーケットが中国で展開するようになった。 今や、スーパーマーケットは従来の青空市場に取って代わり、中国の庶民が日常的な買い物にもっとも頻繁に利用する場所になった。まもなく年に一度の旧正月が訪れるが、この旧正月の買い物の利用頻度においても、スーパーマーケットは他のどの小売業よりも高い。上海の約6割の人が、旧正月の品物はスーパーマーケットで購入している。それほど、スーパーマーケットは中国の都市部に浸透しているのだ。
この数年間、カルフールには何度も足を運んでいる。違う都市にいけばそこにあるカルフールは必ず見るようにしている。 ところで、一見まったく同じつくりになっているカルフールだが、よく見ると商品の構成は店によってかなり異なっている。調べてわかったのだが、カルフールは徹底した権限委譲型の店舗運営をしているのだ。各店舗に権限を委譲して、「どんな商品を揃え、いくらで売るかまで、すべて任せてしまう」というわけだ。 たとえば、日本人も含めて富裕層が多く住んでいる上海の古北地区のカルフールには輸入商品が多く、高価なものまで揃えている。一方、庶民の多い地区の店舗にいくと、まったく違った品揃えとなっている。 実はカルフールにはもう1つの重要な“秘密”がある。店頭価格を、消費者のニーズに合わせて頻繁に変更していることだ。具体的には、すべての商品は、「高敏感」「中敏感」「低敏感」という、消費者の商品に対する敏感度の高い順から低い順まで、3つのランクに大きく分けているのだ。「高敏感」商品は地域の競合スーパーより5%安く、「中敏感」では2%安くしているといわれる。 それぞれの価格に、どんな商品を振り分けるかは、出店地区の消費者ニーズによって変わる。たとえば、富裕層がいる地区では鮮度の良い生鮮品が求められるので、生鮮品が「高敏感」商品となる。庶民の多い地区では卵や豆腐などが「高敏感」になるかもしれない。ここで重要なのは、各店舗は3カ月ごとに周辺の商圏に対する調査をして、商品を調整しながら、必ず高敏感で5%、中敏感で2%、ライバル企業の店舗より安くするシステムを作り上げていることだ。 2〜5%程度の安さなら、わざわざ交通費をかけて行くより、家の近くで買ったほうが安上がりだろうと思うかもしれない。多くの客が集まってくるのは、消費者がほんのわずかな価格差にも、敏感に反応しているからである。 中国市場の中心となる消費者層は、やはり価格に敏感な中間層や大衆層。こうした消費者がカルフールの成功を支えているわけだ。日本の小売業には中国の富裕層を対象としたところが多いようだが、欧米の小売業は価格に敏感な層を含めて、もっと幅広い層をねらっている。そこには両者の戦略の違いがみられる。 |
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