医療安全調、捜査機関への通知めぐり両論
関東甲信越厚生局が1月31日に開いた「医療安全調査委員会(仮称)に関するシンポジウム」には、病院団体幹部や医療事故の遺族、法律の専門家らが参加し、それぞれの立場から私見を交えて見解を述べた。厚生労働省が昨年6月に公表した医療安全調の大綱案に盛り込まれた調査委から捜査機関への通知規定などが焦点になり、医療関係者と医療事故の遺族らの間で意見が分かれた。
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日本病院会の大井利夫副会長は、医療事故の再発防止を「医療界の社会的責務」に位置付けた上で、「医療安全調査委員会の創設は喫緊の課題だ」と強調した。一方で、調査委の役割については「医療安全文化」の構築に重点を置き、事故に関連する法的責任や賠償問題の判断とは一線を画すよう提案。医療関連死に関する医学的見解を、司直の介入に対して優先実施することも求めた。
安全調から捜査機関への通知については、故意による事故や関係物件の隠滅・偽造・変造が疑われる場合などの事例に限定し、「標準的な医療からの著しい逸脱」や「リピーター医師による事故」は通知対象から除外すべきだと主張した。また、医療法を一部改正し、医療機関から安全調への届け出基準を明文化することも提案した。
一方、全日本病院協会の西澤寛俊会長は、厚労省の大綱案で示されている調査委の役割を「再発防止」と「有責判断・被害者補償」−に大別し、これら2つの役割を同じ組織が担うのは困難だと指摘。警察などによる捜査を犯罪による死亡などに限定する一方、原因究明や再発防止策の検討は「日本医療機能評価機構」に委ねる形を提案した。
大綱案については、主として有責判断と被害者補償を目的にしていると指摘。その上で、捜査機関に通知する場合の基準が明確にされないまま新制度が実現すれば、医療現場の委縮や医療崩壊が一層、深刻になりかねないとの懸念を示した。
これに対して、大学病院の医療事故で家族を亡くした小室義幸氏(医療の良心を守る市民の会)は、調査委から警察への通知について、「こうした規定が盛り込まれなければ、遺族が独自の判断で警察に話を持って行ってしまうことも多くなるのではないか」との見方を示した。
小室氏は「医療事故の真相究明をしっかりするために、新制度の創設はぜひ必要だ」と主張。安全調が公表する報告書を全国の医療機関が共有することで、医療の質向上に役立つとの見方を示した。
また、医療関係者以外の「有識者」が安全調に加わる方向が示された点に対しては、「医療界の閉ざされたドアを社会に開くきっかけになるのではないか」と期待感を示した。
■「刑事過失は高度な専門的判断」/「通知規定、警察介入の防波堤に」
神谷法律事務所の神谷惠子弁護士は、医療事故をめぐるこれまでの議論を、「刑事や民事の法的過失論や誰の責任かの視点でなされ、根本的な原因究明の議論には及ばない」と総括。「医療安全の向上」や「事故の再発防止」を目的とする調査委の設置は、国民的な課題を解決できる事業だと評価した。
ただ、調査委が捜査機関に通知する事例として「標準的な医療からの著しい逸脱」が掲げられた点に対しては、「標準的な医療が定まっていない分野も多い」などと否定的な見方を示した。さらに、「刑事過失は高度に専門的な判断で、地方の一委員会が判断することには適さない」とも指摘した。
また、医療機関から調査委への届け出範囲が「誤った医療に起因した死亡」などに限定された点については、「医療安全の目的を半減することになる」と指摘。届け出があった事故を無過失補償の対象にするなど、医療機関からの届け出を促す仕組みづくりを求めた。
このほか、コーディネーターを務めた樋口範雄・東大大学院教授は、調査委と捜査機関の関係について、「医療の話でなくなった時にだけ警察に通知する形を残すことで、警察が入ってこられなくなる」と述べ、捜査機関による介入を防ぐには、調査委から捜査機関への通知規定がむしろ必要だとの考えを示した。
更新:2009/02/03 12:35 キャリアブレイン
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