文部科学相の諮問で、中央教育審議会が「キャリア教育・職業教育のあり方」について審議を始めた。折しも急速に雇用不安が高まっており、審議は大きな課題を担うことになった。
キャリア教育とは何か。中教審は99年、中学・高校と大学の教育のつなげ方について答申した際、この言葉を用い「望ましい職業観・勤労観および職業に関する知識や技能を身につけさせ、自己の個性を理解し、主体的に進路を選択する能力・態度を育てる教育」と定義した。
もっともだが、何やらつかみどころがない。学校現場の先生にはなおのことだろう。体系的な課程が整っているわけではない。
新学習指導要領では、例えば小学校では国語や道徳、総合的な学習の時間などにこうした理念をちりばめ、中学では職場訪問など体験活動の充実をうたう。高校で「キャリア教育」の文言が登場し、推進のため産業現場で長期間の実習などをするよう求めている。実際の取り組みは、従来の進路指導に加えた各校の工夫にゆだねられているといってよい。
こうした中で今回の諮問のポイントは「体系化」だ。将来社会に出て職に就くために学校の各段階で求められる「基礎的で何にでも有用な能力」を明らかにする。それを確実に育成できるような体系的なキャリア教育の充実策を考えてほしいというのだ。
具体的な例示はないが、コミュニケーション能力から責任感、協調性とチームワークなどに至るまで目標はいくつも想定できる。問題は数量化が難しいそれらをどう絞り、段階的に教育していくか。かつてない試みともいえよう。
そして諮問は、専門的知識・技能を育成する従来の高校、大学の職業教育のあり方も見直し、社会の多様なニーズに柔軟に応えるものを、と求めている。
そもそも近年学校にキャリア教育の必要性が指摘されたのは、産業構造や就業形態の変化とともに就職に対する意識も変わったことによる。動機づけや技能的準備が不十分なままでは「ミスマッチ(不適合)」も起きやすい。諮問理由によると、新卒者が就業後3年以内に離職する割合は中学卒約7割、高校卒約5割、大学卒約4割という。
ただ、キャリア教育が事態改善に有用でも、学校教育の範囲にとどめていたのでは十分な効果は望めまい。地域社会や雇用者側に常に新しい人材を受け入れ、責任をもって育て伸ばす姿勢がなければ、在学中のインターンシップのような実習体験教育さえ形骸(けいがい)化しかねない。
また視点を変えれば、キャリア教育が目指すものは教育改革の基本理念である「生きる力」と重なる。この審議は限られたテーマではなく、本来の教育のあり方を考えることにもなろう。成果を期待したい。
毎日新聞 2009年2月3日 東京朝刊