企業から採用内定を取り消される学生が後を絶たない。厚生労働省の調査では、3月卒業予定の大学生や高校生らの内定取り消しは1月23日現在、271事業所で1215人。1カ月前の調査より446人も増え、93年度の調査開始以来最多だった97年度の1077人を年度途中なのに軽く抜いてしまった。
急速な景気悪化が背景とはいえ、取り消された学生はたまらない。この時期の新たな就職活動は極めて厳しい。落ち度のない若者が企業の都合で理不尽な目に遭うことは許されない。
内定取り消しを防止する「切り札」として厚労省が打ち出した施策が、内定取り消しを行った企業名の公表だ。公表基準は▽2年度以上連続の取り消し▽同一年度で10人以上を取り消し、全員に他の雇用先を確保していない▽事業活動の縮小が明白に認められない▽取り消し理由の学生への説明が不十分▽他の就職先確保の支援をしていない--のいずれか一つでも該当する場合だ。倒産した企業は公表対象から除かれる。
厚労省は既に省令を改正し、施行した。施行前の内定取り消しでも、撤回や他の雇用先確保をせずにその後も公表基準に当てはまる企業は公表対象だ。バブル崩壊直後の92年度に一度だけ内定取り消し企業名が当時の労相の政治判断で公表されたことはあるが、制度化されたのは初めてだ。企業への抑止力になると、効果を期待する声は大きい。
ところが、厚労省の公表は今のところ、4月を予定しているという。そんなに遅くなるとは一体どうしたことか。公表の最大の目的は翌年度から就職活動をする学生への情報提供だから、と厚労省は説明する。厚労省が公表前に取り消し撤回などを企業に指導する時間も必要だという。
確かに名前を公表される企業にとってダメージは大きく、慎重さは欠かせないが、公表が遅くなるのでは内定取り消しの歯止めにはならないだろう。企業への指導も厳格でなければならない。10人の取り消しを1人減らせば公表を免れるなどと「抜け道」を伝授するのではないかと誤解されては元も子もない。
倒産したわけではないのに10人以上の内定を取り消した企業は複数に上るという。内定取り消しとみられないために学生が自ら辞退するよう強要する企業もある。厚労省は悪質な企業には厳しい姿勢で臨み、企業名はできるだけ早く公表すべきだ。
ここにきて、内定を取り消された学生を積極採用しようという企業も出てきた。留年して翌年度の就職活動を目指す大学生のために低額の納付金で卒業の1年間延期を認める大学や、取り消された高校生らのために入学金を半額にする大学も現れた。社会人として羽ばたく直前に企業に裏切られ、傷ついた学生には、さまざまな支援が必要だ。
毎日新聞 2009年2月3日 東京朝刊