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社説

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大麻汚染―怖さをもっと知らせねば

 「またか」と驚いた後で「やはり」と嘆いた人も多いに違いない。大相撲のロシア人力士3人の解雇から半年足らず。日本人の十両若麒麟(わかきりん)が大麻所持で逮捕され、解雇処分となった。

 彼は昨年9月の抜き打ち検査で判断がつかず、2度の再検査で陰性と判定された「灰色」だった。持っていた大麻が16グラムと多量だったことから、常習性も疑われている。

 幕内経験もあるこの力士の意識の低さにはただあきれるしかないが、日本相撲協会の責任も重大だ。相次ぐ問題に対し「再発防止検討委員会」をつくったり警察OBら外部役員を招いたりしたが、機能していないに等しい。

 海外では、北京五輪の競泳で大活躍した米国のマイケル・フェルプスの大麻を吸っているとみられる写真が英紙に載り、本人が謝罪した。

 体に人一倍気をつけるべきスポーツ選手の大麻汚染は、大麻はたばこより害が少ないなどという誤った認識があるからに違いない。

 世界保健機関(WHO)によれば、大麻は脳に影響を与え、記憶力や学習能力を低下させる。空間がゆがんで感じられ、事故の原因になる恐れもある。無動機症候群と呼ばれる、やる気を失う精神障害にもなりかねない。

 覚せい剤などに比べれば弱いとはいえ、精神的な依存も起きる。

 大麻などの薬物は、何かを達成したときに脳の中で満足感を生じる「報酬系」と呼ばれる部分に作用すると考えられている。いわば生きる活力を生む源泉に働いて、依存や異常を引き起こすのが違法薬物のこわさだ。

 身体への害が大きいたばこやアルコールと、単純に比較はできない。それぞれ、質の違う健康への脅威と考えるべきだ。

 オランダのようにカフェで大麻を買える国があることも、警戒心を薄れさせる要因かもしれない。しかし、違法だが黙認されているだけだ。大麻が広がっている欧米諸国では、もっと害の大きい薬物の取り締まりに力を注がざるを得ないという事情もある。

 米国では、何らかの違法薬物を一生のうちに経験する人の比率は46%もある。欧州でも20%を超える国は多い。

 ところが、日本は2.9%と際だって低い。薬物汚染で欧米の後を追う必要はない。大麻をきっかけにした汚染の広がりは、何としても防がねばならない。

 昨年11月末までに大麻に関連して検挙された者は2521人、過去最多だった06年の2288人を早くも超えた。逮捕が続いた大学生をはじめ、6割以上が10〜20代だ。

 軽い気持ちで手を出す若者たちがいる。大麻にどんな害があるのか、子どものころから、しっかりと教育することが大切だ。

中国経済―輸出頼みはもう効かない

 中国の成長率に世界の関心がこれほど寄せられたことはなかっただろう。米国発の金融危機の衝撃が広がって、欧州や日本も含め先進国の経済は総崩れ状態だ。そこで潜在成長力が大きい中国に「世界経済の牽引(けんいん)役」としての期待が高まっているのだ。

 その中国の成長率が、昨年10〜12月に6.8%と急激に鈍化した。安定した雇用維持のため「8%成長」を最低目標に掲げる中国にとっては、日本のマイナス成長にも等しい。

 中国政府は、09年には8%成長を達成する、と自信を示している。温家宝首相はスイスで開かれた世界の政財界指導者の集い「ダボス会議」で、「昨年末から中国経済の回復の兆しが見えている」と強調した。

 だが、国際通貨基金(IMF)は先週、中国の成長率は09年も6.7%にとどまるという見通しを発表した。当分は中国経済の先行きに期待と不安が交錯しそうだ。

 中国の高成長は輸出とそれを支える設備増強投資に引っ張られてきた。ところが主要輸出先である米国や日本、欧州の今年の成長率は、戦後初めてそろってマイナスとなりそうだ。市場経済化を本格的に始めた90年代以降の中国にとって、外需に頼らない成長を求められる初めての試練となる。

 カギを握るのは内需の拡大だ。中国の国内総生産(GDP)に占める消費の割合は35%。7割の米国や6割弱の日本に比べ、かなり低い。高成長の恩恵が地方の農村や低所得層には薄かったため、消費を主導する中間層が育っていないからだ。

 中国政府も昨秋発表した4兆元(約52兆円)の景気対策の重点10項目に、中低所得者向けの住宅建設、農村の基盤整備など、その分野へのてこ入れ策を盛り込んではいる。農村部では家電製品の購入に補助金を出すなど、消費刺激策も打ち出したようだ。

 だが世界経済の低迷が長期化しそうな環境だけに、さらに本格的な構造改革が必要だ。輸出主導型から内需重視型へ。経済政策のかじを切るのが遅れて成長の鈍化が深刻になったり格差が拡大したりすれば、社会不安の芽となる恐れも出てくる。

 課題は山積している。都市と地方の所得格差を抑えるには、人々が自由に移動して働ける環境をつくらなくてはならない。後発地域に財政資金を再分配する地方交付税のような制度も必要になる。食糧やエネルギー、地球環境の制約もあるので、13億人の中国はエネルギー多消費型でない成長をめざす必要もある。

 日本は80年代半ばの急激な円高下で内需中心への構造転換が求められ、その道筋を「前川リポート」で示した。中国はどんな未来を描くか。「中国版・前川リポート」を読んでみたい。

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