新聞記事文庫 国際労働問題(9-034)
大阪朝日新聞 1927.4.5(昭和2)


暴民襲来して掠奪暴行を恣にす

邦人五名不明、水兵一名惨殺

在留邦人全部汽船に避難

漢口の日本租界襲撃


【上海特電四日発】漢口四日発電詳報、三日午後四時ごろ漢口銀行(租界内)附近を通行中の日本水兵は子供の悪戯から支那労働者の一部と争いを起したところ、これを見た租界外の支那人暴徒はなだれの如く日本租界内に襲来し日本水兵と見れば片っぱしから捕まえ、附近日本人家屋の掠奪を始めた、急報に接するや総領事および嵯峨艦長は協議の結果陸戦隊二百名を上陸せしめて暴徒を全部租界外に駆逐し、租界内の治安を維持すると同時に日本兵力のおよばざる各国租界および支那町における邦人の保護を支那官憲に依頼した、陸戦隊の上陸決定と同時に形勢ますます険悪となったので総領事館にて協議の上まず鉄道線路外の邦人を租界内に収容し、更に在留邦人全部を引きあげしむるに決し、日本租界前に繋留せる大福丸、大亨丸、武陵丸、三月丸の四隻に避難せしめ午後八時までに租界内外の邦人殆ど全部を収容した、午後七時ごろは形勢最も険悪にして邦人の家屋の掠奪されたるもの六軒、法人経営の泰安紡績は武装せる糾察隊に包囲せられ邦人五名、日本水兵五名計十名は暴民により拉致されて行方不明となった(四日午前四時までに水兵三名帰還した)うち水兵一名は殺害の上揚子江に投げ込まれたらしい、水兵一名と邦人五名は今なお行方不明である、唐生智氏は四日朝領事館に高尾総領事を訪問して漢口事件に対し遺憾の意を表すると同時に軍隊をもって極力取締りに任ずるをもって人心の激昂を招くおそれあれば日本の陸戦隊を撤退されたき旨を乞うたが総領事は事態重大と見て断然これを拒絶した

泰安紡方面の邦人五日引揚げ 支那側の護衛で

【上海特電四日発】漢口来電によれば四日泰安紡績方面の邦人は支那側の保護に依頼し五日引揚げるはず

三駆逐艦上海へ急航

【青島特電四日発】出動命令を受けた第十六駆逐隊三隻は上陸者の非常召集を行い三日夜十二時上海に向け急航した

汪兆銘氏帰る 三日上海に上陸

【上海特電四日発】汪兆銘氏は三日上海についた

日本の要求により唐生智軍租外を警戒 四日朝は形勢漸く緩和

【上海特電四日発】漢口よりの来電によると唐生智氏は日本側の要求あるや直ちに数百名の兵士を支那町方面に派し同時に日、独租界の境界線に多数の公安局巡査を出動警備せしめた、四日朝一時頃までは支那軍隊も暴漢も日本租界を襲撃する形勢は見えなかった

巡洋艦と駆逐艦三隻糧食を満載して漢口へ 日本陸戦隊撤退を拒絶

漢口四日安宅艦長発の電報によれば三日上陸員と暴民衝突し事件重大のため天津風を至急漢口に廻航せしむるよう荒城第一遣外艦隊司令官に請求したので司令官は直に同艦に発令し漢口居留民は全部引揚げに決した、午後四時陸戦隊を上陸せしめ居留民は租界内外ともすべて日清汽船大福丸に収容、支那町及び他の租界は支那官憲に委任した、四日午前零時唐生智氏は総領事を訪問して遺憾の意を表すると共に極力治安の維持に任ずべきを述べかつ民心の動揺を防ぐため日本陸戦隊の撤退を求むるところありしも高尾総領事は断然拒絶した、なお泰安紡績方面の邦人は支那側に依頼し五日引揚げるはずであると、右につきて荒城司令官は上海にあった第十八駆逐隊(天津風、時津風、磯風)及び巡洋艦天竜に糧食を満載し至急漢口に廻航せしめた(東京電話)

長江沿岸奥地の邦人悉く引揚げ準備 外務、海軍両当局で打合せ

漢口における日支衝突の結果漢口慰留民全部引揚げに決したことはその筋にも到着したが、事態がかくの如くなっては宜昌、万県、重慶、成都、常徳、長沙、沙市方面の奥地にある居留民をも引揚げせしめねばならないので目下海軍、外務両当局の間でこれらの居留民全部引揚げの方法手続きなどについて打合せをなしている(東京電話)

畢庶澄銃殺さる 南軍に降った罪で

【天津四日発某所着電】さきに南軍に投降し第四十一軍長に任命せられたとの噂ありし畢庶澄氏は就任せずして北方にのがれたるも戦わずして上海を抛棄した廉により、三月二十六日徐州において銃殺された畢軍の損害は小銃四万、砲六十、機関銃百と称せらる、なお口玉璞軍の損害は小銃三万七千、砲四十、機関銃百、軍用金八十万元、部下三万失踪せりとのことなり

排日ポスター 広東にも現る

【上海特電四日発】広東二日発その筋着電によれば、広東は目下平穏なるも左傾派の一部は蒋介石氏とは親密で、南北妥協をなしつつありと宣伝し、両三日前より排日ポスターを支那側にはり出した

万事は汪氏の指揮をあうぐ 蒋介石氏から声明

【連合上海三日発】蒋介石氏は三日国民党支配下の各省に通電を発し国民党の成功につき述べ、しかしていわく
国民党の忠実な党員で余の尊敬する汪兆銘氏は今回外国から帰来し吾々は共に相語り万事において意見の一致を見た、今や余は軍事、民事、財産並に外交の諸政務を汪氏の指揮に委ね力を中央政府に集中しようと欲するしかして軍事については命令は一途に出ずるを要するが故に余はただ北伐軍のみを指揮し、汪氏の命令ならば如何なる命令にも服従する、国民党の各員皆この態度を以て国民党の基礎を固め、速かに吾々の革命の成功を期するよう努力されたい

長江筋奥地の邦人は全部漢口に引揚げる 命令と同時に準備に着手す 消極策で進むわが政府の方針

漢口における騒擾突発に対して、わが政府当局としてはこの際出兵その他の積極的手段を用いてのぞむことを避け、居留民引揚げの消極的政策をもって進む方針である、すなわち目下の支那においてはいずこにも責任ある政府がないのみならず南方国民政府もまた統一を欠き、最高幹部の命令不徹底なるを免れないから、支那側に居留民の生命財産の安全を託すわけに行かないさりとて自衛手段に出で支那各地に散在する邦人の完全なる保護を期するは莫大の兵力を要するのみならず到底不可能であり、かつ日支将来の関係にかんがみ甚だ不得策である、よってかくの如き不安定いつ如何なる突発事件の発生をも保し難い現状に対しては、しばらく隠忍して、おもむろに形勢の推移を看視する一方、居留民を一旦安全地帯に集中せしむるのほかはないから、当局としては四日打合せの上直に長沙、常徳沙市、湘潭、成都、重慶、万県、宜昌など長江奥地の居留民に対し全部漢口に引揚げるよう命ずるとともに、引揚げ手続に着手した、したがって漢口居留民および各地から集中する居留民全部は一時船に滞留せしめ、今後の形勢を見ることになったと(東京電話)

漢口の租界周囲に群集刻々に増す 同仁病院も引揚ぐ

【上海特電四日発】漢口四日発着電によれば、同仁病院はそのまま引揚げた、四日朝来民衆はますますわが租界の周囲に雲集しつつあるが支那側の手で制止中である、三日夜英艦ビー号に避難した邦人二十五名は四日朝まで安全に保護を受けていた

三日の衝突事件 わが死傷者なし 邦人二名の消息絶ゆ その筋への情報

四日漢口発その筋着電によれば漢口租界における支那暴徒との衝突事件においてわが兵にも居留民にも死傷者はなかった、ただ居留民が日清汽船に引揚げたに際して二名の在留邦人が引揚げて来なかったと(東京電話)

米百俵を急送 上海から漢口へ

【連合上海四日発】上海日本総領事館は漢口在留民に対し取あえず米百俵、その他の食料品を急送するに決し、日清汽船大吉丸、大定丸、岳陽丸の三隻にこれを積載し軍艦浜風護衛のもとに五日朝出帆せしめる予定である

対支政策は変更すな 憲政会幹部会

憲政会では四日午後二時から本部において幹部会を開き対支問題について特に永井外務参与官、久保田海軍中佐から詳細な報告を聴取したのち協議の結果
揚子江一帯に局部的に起った事件に拘泥して対支外交の根本方針を誤らないようにするが最も必要である、政府は既定の方針によってあくまで日支親善の実を挙げるよう努力して貰いたい
ということに意見の一致を見た、なお対支問題はきわめて重要であるから引きつづき研究会を開くこととなし最後に戸沢代議士から徳島県の党情につき報告あり五時散会した(東京電話)

支那銀行等から三百万ドル

【連合上海四日発】蒋介石氏と支那銀行公会、総商会、銭業公会との間に交渉中であった借款はいよいよ成立し四日現金を交付するはず、総額は三百万ドル、利子七歩期限三月、担保は関税附加税で、なおその他上海の治安維持などの希望も附加されている

蒋介石氏借款成功 南軍勢力下の在支日本人数 三万八千六百五十名

長江方面における不安は日本に対し容易ならぬ打撃を与えつつあるが、目下南軍の勢力範囲内における在留日本人は三万八千六百五十名で配分状態は左の如くである
上海一九、四七三△寧波八△温州二九△蘇州八八△杭州五五△常州三△鎮江二△南京一一七△蕪湖一〇二△漢口二、二六九△九江七六△漢陽九△武昌二四△沙市四一△長沙一三八△湖潭四△常徳一〇△宜昌八七△重慶九〇△成都一八△福州三一九△厦門二七四△汕頭一五六△広東四三一△香港一、五三五

北京の米人ぞくぞく引揚ぐ 天津方面へ向って

【北京特電四日発】アメリカ公使は在北京アメリカ人に北京引揚げを勧告したので天津方面へ去るもの少なからず

宜昌も引揚げ 英国領事をはじめ 英米人全部が両三日中に

【上海特電四日発】宜昌三日後その筋着電によれば、宜昌のスタンダード石油会社は三日店を閉鎖したなお英国領事及び在留英、米人は全部両三日中に英艦及び米船にて引揚げることに決したと

杭州総工会解散 死傷多数を出す

【連合上海二日発】杭州通信によれば、同地では最近左右両派の軋轢激烈となり、留守主任羅為雄は兵力をもって総工会及び糺察隊を解散せしめたが、右解散に際し猛烈なる争闘を演じ、死者十名、負傷者七、八十名を出だし、かつ総工会に属するものは続々検挙されている

今後機を見て上陸させる? 漢口の居留民 外相、本党委員に答う

政友本党の松田総務、小川政務調査会長、柏田幹事は漢口事件につき四日午後三時半外務省に幣原外相を訪問、同四時半まで懇談するところあったが、幣原外相の説明要旨は左の通りである。(東京電話)
漢口事件は三日午前中小児の悪戯から支那労働者と日本の陸戦隊と衝突するに至ったものである、しかして日本租界内における数戸の商店が損害を蒙ったが死傷はない、されど我が居留民は租界内および租界外のもの全部二千二百余名を折柄在泊中の日清汽船の三隻に収容して無事なるを得た、ついで我が陸戦隊は二百名上陸して機関銃を据えつけて租界保護の任にあたっておる、その後同地の支那側軍団長唐生智は高尾総領事に向って日本が陸戦隊を撤退するにおいては支那の労働者および暴民を責任を以て十分に取締って租界から撤退せしむべしと交渉して来た、しかし高尾総領事は断然拒絶した、今日の模様ではこれ以上異変はあるまいと思われるから今後機を見て居留民を再び上陸させるようになるかも知れぬ、同地の警備については目下軍艦四隻があたっておるが、更に上海より争闘大きな軍艦四隻を急派中で、したがって陸戦隊も増員されることとなる、かくて同地方の秩序は一応維持されておる、また上流地方も今のところ異変がない、上海の方では蒋介石氏が秩序維持の任に当って漸次恢復しつつあり、かの工人および便衣隊の如きも蒋氏の手で武装を解除したほどであって今日の形勢では心配することはない

支那の声明は信頼できぬ 某消息通談

【上海特電四日発】今回の漢口居留民引揚げに関し某消息通は左の如く語った
唐生智氏は数日前我が官憲に対し、英、米居留民は引揚げを断行したが日本居留民に対しては十分保護をなすから漢口に止まるよう勧告したが、たちまち三日の如き事件が発生し、なお当時租界外にあって租界保護のために派遣された支那兵等が、故意に邦人に対し発砲するが如き状態であるから国民軍の声明に信頼することが出来ず、遂に引揚げを断行するに至ったのである

青島支那軍艦の武装解除 南軍へ内応するを恐れて

【連合青島四日発】青島の支那軍艦六隻は南軍に内応する恐れあるため、四日武装を解かれた


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