麻生太郎首相は、世界経済フォーラム年次総会「ダボス会議」で行った特別講演で、地球温暖化対策を進めるための温室効果ガス削減の日本の中期目標を、六月までに公表する考えを表明した。首相が中期目標の設定時期を明言したのは初めてだ。
金融危機への対応策などと合わせて、世界へ向けて温室効果ガス削減の目標設定を確約した意義は重要だが、欧州連合(EU)をはじめ主要各国は既に目標数値まで表明済みだ。迫力不足は否めない。
数値目標の設定は、二〇一二年までの排出量削減を定めた「京都議定書」を引き継ぐ一三年以降の枠組みづくりをめぐり、大きな焦点になっている。いわゆる「ポスト京都」交渉は、今年十二月にデンマークで開かれる気候変動枠組み条約第十五回締約国会議(COP15)での合意形成を目指している。
日本は、議長国を務めた昨年七月の北海道洞爺湖サミットで、温室効果ガスを五〇年までに世界全体で半減させる長期目標を共有するとの合意取り付けに成功した。しかし、その後の国際交渉で存在感を発揮しているとはいえない。中期目標を明確にしていないことが背景にあるとされる。
二〇―三〇年ごろまでに、温室効果ガスの排出量をどれだけ減らせるかを各国が定める中期目標は、長期目標達成への重要なステップとなる。EUは二〇年までに一九九〇年比で20%削減の目標を決めており、カナダ、オーストラリアも公表済みだ。米国は温暖化対策に消極的だったブッシュ大統領に代わったオバマ新大統領が積極姿勢に転じ、九〇年の水準まで削減する方針を打ち出している。先行するEUに米国も加わって主導権を取れば、日本は取り残されかねないだろう。
政府の有識者会議「中期目標検討委員会」が議論しているところだが、各省庁や産業界の思惑が複雑に絡むだけに、調整は難航しそうだ。それでも踏み込んだ目標を示すことができなければ、国際的な評価を得ることはできまい。
講演で麻生首相は中期目標について、裏打ちのない宣言とはしないと述べたが、目標達成のために必要な政策的な裏付けと戦略が欠かせない。また、首相は途上国に対して高い経済成長を維持できるような温暖化対策を支援することも主張した。日本が有する優れた環境技術を積極的に生かしていくことは、先進国としての役割を果たすことにもなるだろう。
中国製冷凍ギョーザによる中毒事件が発覚してから一年がたった。いまだに真相は解明されず、中国産の食品に対する不信は解消されないままだ。
中国河北省の天洋食品が製造した冷凍ギョーザを食べた千葉と兵庫の三家族計十人が中毒症状を起こしたことが公表されたのは、昨年一月三十日だった。日本では使用が禁止されている有機リン系殺虫剤メタミドホスが検出されたが、中国の公安当局は当初、中国国内での殺虫剤混入に否定的だった。
六月に中国国内で天洋食品製ギョーザを食べた四人の中毒事件が起きたことで状況が変わった。天洋食品関係者による混入の疑いが強まり、中国警察は容疑者を数人に絞り込んだが、物証や決定的な動機が見つからず、捜査は手詰まり状態という。
河北省唐山市で昨年四―五月に、鉄鋼会社の従業員が無料配布された天洋食品製ギョーザを食べて中毒症状を訴えていたことが先日、報じられた。ただ、この件について中国政府から日本側への通報はなかった。中国側の情報開示は十分なのかどうか、疑問を抱かざるを得ない。
事件は中国産食品の安全性を大きく揺るがし、その後も牛乳へのメラミン混入問題などが相次いだことで、消費者の“中国産離れ”は加速したといえよう。内閣府が昨年九月に実施した世論調査では、食料品を買うとき、輸入品より国産品を選ぶ人が89・0%に上った。二〇〇〇年の同種調査より7・1ポイントも増えた。選択する際の基準も「安全性」が89・1%とトップだった。ギョーザ事件が影響していることは間違いない。
なによりも真相解明が必要だ。中国当局は捜査に一層力を入れるとともに、日本側もさらに協力できることがないか、働きかけを強めてもらいたい。
(2009年2月2日掲載)