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総合周産期センター:妊婦受け入れ率に開き 救急搬送、全国72% 東京・大阪41%

 妊婦の救急搬送を24時間受け入れる全国の総合周産期母子医療センターが07年度、一般病院や救急隊からの依頼を受け入れた率は、100%から21%まで大きな開きがあることが2日、「全国周産期医療連絡協議会」の調査で分かった。全国の平均受け入れ率は72%、東京都と大阪府に限ると41%。リスクの高い妊婦や新生児らにとって同センターは「最後のとりで」と言われるが、施設間格差が際立っている。【河内敏康】

 調査は昨年10~11月、全国75の同センターを対象に実施。母体・胎児集中治療室の担当者にアンケートを送り、全施設から回答があった。

 受け入れた症例を依頼件数で割った「受け入れ率」は平均72%だが、東京と大阪の大都市部(計14施設)の平均は41%だった。施設別のデータは、公表を望まない施設に配慮して公表していない。

 東京・大阪の受け入れ率が低い理由について調査は「症例が発生するたびに個々の施設に受け入れを打診しており、各施設が能力以上の依頼を受けている」と分析。搬送先を探してあっせんする専門機関の設置を提言している。

 治療を担当する常勤の産科医は1施設当たり平均12・7人で、最大37人、最低3人。産科医1人当たりの月間当直回数は平均6・8回、最大14回だった。

 同センターは24時間態勢のため、労働基準法上は日勤、夜勤などと交代する勤務が必要だ。だが75施設中73施設は「当直」制を導入。当直は本来、軽度な業務を想定したものだが、実際には緊急帝王切開などに従事している。58施設では当直明けの医師が翌日も夜まで勤務し、「原則休日」としているのは5施設だった。

 調査を実施した海野信也・北里大教授(産婦人科)は「総合周産期母子医療センターは過酷な勤務状況の下で運営されているのが実情。病院側は人員を確保して、勤務医が労基法の範囲内で働ける勤務環境を整備すべきだ」と指摘している。

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 ■解説

 ◇都市部に調整機能必要

 全国の総合周産期母子医療センターの施設間で、妊婦の受け入れ率に大きな格差があることが明らかになった。地方と大都市部を比べると、センターの数が少ない地方では他に受け入れ先がないのに対し、大都市部ではセンター数が多いだけに「他のより良い施設にまかせた方がいい」と現場が判断するなどし、受け入れ率が低くなる、との指摘がある。

 05年の調査では、受け入れ率の全国平均は72%。東京・大阪は平均46%で、最高79%、最低27%だった。大都市部の低さは依然として改善していない。

 背景には、妊婦の搬送体制の不備がある。東京には搬送先を調整するコーディネーターがいない。救急隊や病院が個別に受け入れ施設を探しており、見つかるまでに手間がかかる。本来対象としない軽度の患者からの依頼にもセンターが対応した結果、受け入れ率が低下する現実もある。

 コーディネート機能があれば、リスクが高い患者のために病床を確保したり、優先的に搬送することで受け入れまでの時間を短くできる可能性がある。

 札幌市では、市立の夜間急病センターに助産師資格を持つオペレーターを配置している。毎夕、新生児集中治療室の空き状況を確認し、依頼に応じて搬送先を決めている。

 東京都は、緊急性の高い妊婦を優先的に受け入れる「スーパー総合周産期母子医療センター」構想を進めている。

 受け入れ病院を効率よく探し出し、搬送時間の短縮につなげる取り組みが急がれる。【河内敏康】

毎日新聞 2009年2月3日 東京朝刊

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