【ダボス(スイス)川上克己】世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)でのわずか約30分間の演説のため、週末にスイスへ飛んだ麻生太郎首相。その意欲とは裏腹に、演説内容は過去の政策や構想の紹介が目立ち、中長期の構想を国際社会に示すことはできなかった。過去最高の約40カ国の首脳が集ったダボス会議。しかし首相の「駆け足」外交は、「各国に乗り遅れまい」との危機感ばかりが空回りした印象だ。
演説は力強さを欠いた。地球温暖化問題で20年ごろまでの中期目標を6月までに日本が決定すると初めて明らかにしたが、既に欧州連合(EU)は「先進国の温室効果ガス排出を30%削減」との中期目標を表明済みだ。
演説では、08年11月に表明した国際通貨基金(IMF)への融資のほか、事業規模で約75兆円の景気対策などを強調。中東問題では「テロとの戦い」の焦点であるアフガニスタンでの民生支援を「元兵士約6万人の武装解除と社会復帰を実現」など具体的な数字を挙げた。だがいずれも過去の実績のアピールだ。求心力を欠いた麻生政権が、新たな取り組みを打ち出せない苦しさの裏返しでもある。
演説に先立ち麻生首相が会ったのはブラウン英首相。会談実現に向けて英国側とすり合わせた外務省は出発ギリギリまで危ぶんでいた。結局、話はしたが、約25分の「立ち話」にとどまった。
08年1月のダボス会議で演説した福田康夫前首相は8カ月後に退陣した。麻生政権も今秋までには衆院選挙が行われる。外務省幹部は「政権が不安定な日本との交渉に、各国とも関心を失っている」と懸念を示す。
【ダボス(スイス)川上克己】「私は2年前、外相として『自由と繁栄の弧』という考え方を示した」--。麻生太郎首相はダボス会議での演説の冒頭で、外交路線に関する自身のキャッチフレーズを強くアピールした。「中国を刺激する」言葉との配慮から08年9月の首相就任以降、公式の場では持ち出さずにきた言葉。28日の施政方針演説で解禁し、今回、国際会議の舞台でも発信した。内閣支持率の下落に歯止めがかからず、安全運転より独自色の発揮に活路を見いだしたいとの思惑がありそうだ。
「自由と繁栄の弧」は、民主主義、法の支配など価値観を共有する国々との連携を強く打ち出す外交路線。外務省幹部は「発想そのものは冷戦後の日本外交の基本姿勢」と評する。ただ首相は外相当時、北東アジアから中央アジア、東欧、バルト諸国までの民主主義国で「帯のように弧を作らなければ」と主張して使い、地理的に「中国が『包囲網』と受け取りかねない」言葉となった。
毎日新聞 2009年2月1日 東京朝刊