2009年02月03日

小高 芳太朗

龍と出会ったのは高校の入学式だった。
その日龍はボンタンをはいて指定外の靴とリュックで
肩で風を切って歩いていて、正直俺は、あいつ感じ悪いなあ、と思った。
そして始まった高校生活
どこにでもあるような親睦を深めるための林間学校があったのはその数週間後。
一年一組の一番と三番だった俺と龍は当然同じ班で
寝泊まりする部屋ももちろん同じだった。
誰しもがそうであるように、もちろん消灯時間が過ぎても寝るはずなんかない。
誰からともなく、とりとめもない会話が始まった。

今思えば、親睦という理由なら、この時間ほどお互いの距離を取っ払って話せる時間もないと思う。
そして、今思えば、
見回りに来る教師に隠れてこそこそ話すからこそ、いつも逆にそれは盛り上がった。
ある種の共犯めいた一体感。

とにかくその時も俺達は出会って間もない、よくも知らないお互いの事を話し合った。
最初からリーダーシップを発揮していた龍はその時
俺の事を『ヨシ』と呼ぼう、と提案したりもした。
(そしてそのニックネームは数日で風化し、それ以来俺は今まで通りおだかと呼ばれる事になる)
そこに見回りに来た教師M
普通、足音なんかを立てて近寄って来てくれりゃこっちだっておとなしくしてるものを
何の前触れもなく扉を開けるM
本当に陰湿な教師だった。
ちなみに名前は御手洗っていうんだけど。
まあそれは全然どうでもいい。
Mが今ハゲてたってどうだっていい。
そしてMは言った。
「喋ってた奴出てこい。」

もうすぐ29になる俺は思う。
思春期のほとんど初対面同士の連中が夜10時なんかに寝る訳があるか!
そして、その事のどこが一体いけない事なんだろう?
それだけは未だに解らん。
ひとつも解らん。
もし、これを読んでいる人の中に近々林間学校がある人がいるなら
思春期をなめるなと噛み付いて欲しい。
でも、昨今の教育事情だとそういう教師も少ないのかな。
それはそれで淋しいな。
教師よ、臆するな!
それで生徒は盛り上がるんだから。

話が逸れたけど
どれだけ狸寝入りをかましても喋った奴出てこいの一点張りの
Mは諦めようがないので
根負けした俺は一人立ち上がった。
別にカッコつけるつもりはなかったけど
このままでは収集がつかないし、逆に面倒くさかった。
そしてMの前に名乗り出た。
そこでMは驚愕する言葉を放った。
「おまえ、一人で喋っとった訳なかろうが。一緒に喋った奴呼べ。」

なんという陰湿気質か。
これはまんま、出会ったばかりの友達を売れ、と言っているに等しい。
そんなの、部屋全員で喋っていたに決まってるのに、解りきってるのに
その中から一人犠牲にするのをおまえが選べ、と言っているのだ。

って、ここまで書いておいて、これは壮大なイントロ。

俺は気がついたら龍の名前を呼んでいた。
何故か、こいつなら解ってくれると思った。



「おまえら立ってろ」
と言われた俺達二人はそこから数時間、お互いの色んな話をした。

ここまでだととても美しい話なんだけど
話してみると、
見事なまでに俺達は話が噛み合なかった。
何から何まで、
それこそ好みの女性の目鼻立ちの感じまで、まるで正反対。
あまりにソリが合わなくて、深夜の廊下に立ちながら半ば口論になったほど。
それでもその時、なんとなく
ああ、こいつとは一生つるんでいく事になるんだろうなあ…。
と何故か俺は思った。



俺は、母親になかなか褒められた事がなかったけど
「あんたは友達を見る目だけはあるね」とは常々言われた。

そんな俺が去年、メンバーだけでなく、友達としても龍を失いかけた。

10年もこういう風にバンドをしていると、ほんともう家族みたいで
そこから抜けるって事はもう、ほとんど人間としての関わりを断つ、ぐらいの気持ちになってしまって
だから龍を失いたくなかったし
それでも龍はもう何年も前から悩んでいたし苦しそうだった。
みんなの前では笑っていたけど、機材車移動の時なんかは本当に苦しそうだったんだよ。
だから、龍が辞めたいと言った時、
正直、これでお互い楽になれる
と俺は思ってしまった。
もう、四人の中で、人生をバンドに捧げるか、全部捨てて辞めるか
100か0か、それしかなくなっていたんだ。
そこに、第三の選択肢を与えてくれたのは
誰でもない、社長兼マネージャーのボビーだったんだ。

80の時もあれば、20ぐらいの時もあっていいんじゃない?

そんなんありですか?
と、メンバー全員思ったし、どうやってそうしていけばいいかも解らんかったけど。
でもとにかく、皆で話し合った時、一番大事だったのは
龍が、「この四人で夢を追いたくない訳がない」
って事と、「でも、今の気持ちのまま自分がバンドを続けていていい訳がない」
って事だった。
そしてそこから出た答えが
それをどっちも諦める必要なんかないって事なんだよ。

だから、俺達、与えられたパーツの中で
一番最高の未来を切り開けたと思うし
何より龍は、そうと決めた時から憑き物がとれたみたいに明るくなった。
あいつは迷いが無くなったらめちゃくちゃ強いよ。
昔から一番敵にしたくない男だったんだよ。
だから皆信じていいよ。
これからの俺達の事信じていい。

今、現在、俺達も何にも解らんけれど
すごい無責任な言葉だけど

俺達は見つけたんだ。
10年経って、やっと
揺るがないものを見つけたの。

それを気付かせてくれたのは、今まで出会ってくれた、沢山の人達で
俺達を愛してくれる皆のお陰なんです。
本当だ。

俺達別にそんな売れてないけど
それでも沢山の人が俺達を求めてくれる。
それはいつでも俺達のモチベーションだし
だから龍も頑張れたと思う。

俺達四人だったら、乗り越えられなかった。
まだ、乗り越えてもないんだけどさ。
乗り越えるその一歩さえ踏み出せなかった。

だから、これからも一緒に歩いていってくれませんか?
ランクヘッドっていう夢を一緒に見てってくれませんか?
俺達まだまだ夢を見たい。
もっともっと売れたいし、もっと沢山の人に届けたい。
その夢を一緒に歩いていってくれませんか?


これからもよろしくお願いします。


おやすみなさい。



lunkhead_nikki at 02:23 │clip!
Profile
Discography
BEST Album「ENTRANCE 〜BEST OF LUNKHEAD age18-27〜」
01.ENTRANCE ※新曲
02.千川通りは夕風だった
03.白い声
04.前進/僕/戦場へ(アルバム・バージョン)
05.月光少年
06.体温
07.ハイライト
08.プルケリマ
09.インディゴ
10.カナリア ボックス
11.光の街
12.僕らの背中と太陽と
13.きらりいろ
14.夏の匂い
15.スワロウテイル
16.東京にて(new ver.)
17.僕と樹(new ver.)

2008.03.05発売
¥3,045(税込)
VICL-62760