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なぜ振り込め詐欺はなくならないのか? (1/3)
年間276億円もの被害を出している振り込め詐欺。警察はATMに警察官を張り付けるなど、取り締まりを強化しているが、新たな手口を次々と生み出す犯人とのイタチごっこが続いている。
[産経新聞]
年間276億円もの現金被害を出している振り込め詐欺。警察は現金自動預払機(ATM)に警察官を張り付けるなど、取り締まりを強化しているが、新たな手口を次々と生み出す犯人グループとのイタチごっこが続いている。警察庁は2月を「被害撲滅月間」に指定。被害額半減を目標に取り締まるが、捜査にはある“壁”も指摘されている。
わずか5年で“一大犯罪産業”
振り込め詐欺という形態の犯罪が日本の警察に初めて認知されたのは平成15年夏ごろ。都内の警察署で被害相談に当たっていた警視庁の元警部は当時の状況をこう振り返った。
「『もしもし、オレオレ、オレだけどさ。急にお金が必要になっちゃって……』。こんなスタイルで金をだまし取られる被害が目立ち始めたため、防犯指導の際に、住民に注意を呼びかけた。そのときの反応ですか? ほとんどの人は『まさか、そんな芝居に簡単にだまされるわけがない』と笑ってましたよ」
その反応を見た元警部は、「これはまずいな、被害が大きく広がるぞ」と直感したという。
元警部は、違法なマルチ商法や詐欺事件の捜査にかかわった経験から、「誰もが『引っかかるわけがない』と考える手口ほど対策が後手に回り、被害が拡大するという傾向があり、振り込め詐欺はその典型。組織作りから役回りまで、手口がマニュアル化されやすく、一つのお手本ができると一攫千金をねらう若い犯罪者が飛びつきやすい」
イタチごっこ
人々の警戒心が高まらぬ間に、被害は予想をはるかに上回るペースで広がっていった。
16年8月には月間被害額が36億円を突破。9月には、月間被害件数が2673件にのぼり、この両月の数字はそれぞれ、これまで破られていない。
その後、同年12月には銀行口座開設時の本人確認を厳格にした改正本人確認法が施行。携帯電話不正利用防止法などの対策が矢継ぎ早に実施され、19年1月には認知件数985件、被害額10億9900万円にまで沈静化させることに成功した。
だが、警察当局の安堵もつかの間。翌2月からは再び増加に転じ、昨年4月の月間被害額は33億2700万円の第2次ピークを迎える。
公安投入も
昨年、警察は組織挙げての対策に乗り出した。機動隊員や制服警官によるATM周辺での声掛け警戒、銀行への事件絡み口座の通報…。さらに、銀行による口座の監視や携帯電話事業者による契約時の本人確認の徹底、ボランティアと協力した高齢者宅への戸別訪問を行った県警もある。
10月には全国の警察が撲滅キャンペーン(取り締まり強化推進期間)も行った結果、昨年の年間被害額はワースト2の約275億9000万円となり、過去最悪は直前で免れた。
警察庁幹部は「犯人グループが詐欺電話をかけるアジトを発見するため、本来は過激派やテロリスト対策で使う公安部門まで投入した。今後もあらゆる対策を取って、完全撲滅まで、徹底して追いつめる。2月の月間では、被害額を10月の半分に抑えたい」と意気が上る。
カギは通話履歴の保存期間延長
振り込め詐欺対策をめぐっては警察庁だけでなく、自民党も「治安上の重大課題」と位置づけ、専従の「振り込め詐欺撲滅ワーキングチーム(WT)」(座長・菅原一秀衆院議員)を設置。警察庁と他省庁、業界との協議の場を設け、省庁、業界団体や事業主体との間の利害を調整し、多くの合意を取り付けている。
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