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再び鍵かけのお願い 「ウチに限って」過信禁物
島根県警察本部長 大橋亘
「私が一階のリビングで犬と一緒に寝ていたときのことです。横にいた犬のうなり声で目が覚めました。そして廊下へ出て明かりをつけたところ十メートル先くらいに人がいるのが分かりました。体形などから家族でないことがすぐに分かり、とっさに『泥棒だ』と思い『ぎゃー』という大声を上げました。泥棒は私の声を聞くと、慌てる様子もなくゆっくり私の真横を通り過ぎ、家の外へ逃げていきました…」。昨年、泥棒に入られた島根県西部在住の主婦の生々しい体験談の一部です。
昨年、本欄で二度にわたって、犯罪の発生を防ぐため、ご自宅や自動車・自転車などにしっかりと鍵かけをしていただくよう県民の皆さんにお願いをいたしました。県警察は昨年一年間組織を挙げて、この「鍵かけ運動」に重点的に取り組み、防犯ボランティア団体の皆さんの献身的なご協力も頂いて、大きな成果を挙げることができました。
最も顕著な効果が表れたのは「自動車盗」で前年比七割弱の大幅減少。次いで「オートバイ盗」が同四割弱の減少。「自転車盗」も同二割弱の減少となりました。これら「乗り物盗」については、鍵かけ(キーをつけたまま離れない)が相当程度浸透し、それによって犯罪発生が激減したものと分析しています。
これに対して、住宅を対象とする「侵入窃盗」については残念な結果となりました。「空き巣」(家が留守の時に侵入する泥棒)こそ前年とほぼ同数ですが、「居空き」(日中、家に住人が居るにもかかわらず侵入する泥棒)が、前年比四割強の増加。「忍び込み」(夜間、住人が寝静まった時に侵入する泥棒)にいたっては、同約三・七倍という大幅増となりました。残念なことに、これら住宅対象「侵入窃盗」の犯罪被害の約九割が無施錠であり、無施錠率全国ワースト一位(昨年十一月末現在)という不名誉な結果となってしまいました。
これらの侵入犯罪は、偶発的に住人と遭遇する可能性をはらんでおり、そうなれば犯人が居直って、強盗や殺人などの凶悪犯罪に発展するおそれのある極めて危険な犯罪です。その可能性が「空き巣」より高い「居空き」や「忍び込み」が急増している現状は深刻であると言わざるを得ません。冒頭に掲げた体験談は「忍び込み」の事例ですが、その恐ろしさが十分お分かりいただけるものと思います。
なぜ、住宅について鍵かけが進まないのでしょうか。私は、その主たる原因は県民の皆さまの間に「自分に限って大丈夫」という思いが根強いことにあるのではないかと考えています。はっきり申し上げます。その考えに根拠はありません。
よく「私のウチには盗まれるようなモノはないから大丈夫」と言われる方がいらっしゃいます。しかし、「プロ」の泥棒たちにしても、家の外見から財産の多寡をはかるすべはありませんので、ひたすら「入りやすい家」(無施錠がその典型であることは言うまでもありません)を狙います。一軒当たり数千円、数万円の盗みを何十軒、何百軒と敢行するのが、典型的な「プロ」の手口なのです。
また、「私の住んでる地域に泥棒するような悪い人はいない」と言われる方がいらっしゃいます。しかし、多くの場合、泥棒は他の地域から入ってくるのです。全国をまたにかけた広域窃盗グループも少なくありません。「ご近所とは家族同然の付き合いで家に鍵をかけると水くさいと言われる」という声を聞きますが、「泥棒はよそからやって来る」ことを踏まえて、ここは、お互いに発想を転換しましょう。
経済情勢が悪化すると犯罪(正確には窃盗などの財産犯)が増えるということは統計的に証明されています。その意味で今年は要注意であると認識しています。危険な「侵入窃盗」を防ぐ最後の「防波堤」は鍵かけです。
あらためて鍵かけの励行をお願いいたします。
…………………………………
おおはし・わたる 一九六二年、岐阜県生まれ。東大経済学部卒。八四年、警察庁入庁。警察庁警備企画課、警視庁三田警察署長、警察庁薬物対策課理事官、警視庁第一方面本部長、警察庁暴力団対策課長を経て、二〇〇八年から現職。
('09/01/19
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