◆[山形市]東原町・諏訪町・小姓町 重っだい雪(2009平成21年2月1日撮影)


白と黒の世界に静謐が満ちる、もみじ公園。

重たい雪を払いのけながら、クネクネと春の準備に勤しむ枝先。

「ほだい耳元さ近づいで喋らんたて聞こえっから」
二羽はいつまで経っても、囁きが聞こえる距離を保って離れない。

「ぎっつぐ握て離すなよぅ」
「一生絶対離さねぇ」
「雪かきスコップは春になっど離すげんとなぁ」

「なんだかんだいろいろゆてっげんと、その前に自分の雪ば払たらなんた?」
「おらだは人々に注意喚起を促すのが業務であって、雪を払うという行為はマニュアルに無いっす」
融通が利かない愚直な看板。

「今日は休みだがら、行儀良いぐしてるニャー」
雪をかぶり猫を被る猫バス。

「んんん、前が見えね」
「今の時代、みんな前が見えねんだっす」

踏ん張った前足にも、頭にも雪を被り、骨董市の様子を気にかける狛犬。

地面に骨董品を広げ、言葉の大風呂敷も広げあって楽しむ骨董市。

「お昼はポットのお湯でカップ麺かぁ」
「んだねっす。時間ないし」
通り過ぎる会話に失望を隠せない鉄瓶たち。

「こだい雪降って、今日はどれだげお客さん来るもんだがなぁ」
最新式の携帯を凝視しながら、年代物の骨董品を売りさばく算段。

山形では雪というハードルが多すぎる。
ハードルが低くなり、溶けていく春が待ち遠しい。

駅前大通り沿いに林立する諏訪神社の大木。
根元を通り過ぎる人々。梢を吹き抜けていく北風。

十日町と諏訪町で進む土地区画整理。
拡幅された道路に、電信柱が数多くのしがらみを体中にぶら下げて立ち尽くす。

「まんず重だい雪だごどぉ」
水分をたっぷり含んだ雪があっという間に降り積もり、山形人の重荷になった。

山形は町の真ん中でも意外と大木が多い。
電信柱がいくら虚勢を張っても、大木のどっしりとした大人の振る舞いには追いつけない。

再開発が現在進行形の町。
昭和が町中に深々と根っこを張っていたものだから、平成へ生まれ変わるのは容易でない。

雪上に迷路を造って遊んでいるわけじゃない。
ましてや、彩りの少ない冬の山形をカラフルにする役割でもない。

石畳が自慢の道も、すっかり雪に隠れてしまった小姓町。

一升瓶と雪かきが、異業種で世間話をする路地裏。

公衆電話のガラスの向こうで、
雪に悪戦苦闘しながら自転車を押している人が遠ざかる。

「この寒いのに、なんだて薄着でリラックスしったごどぉ」
暖かいお湯にゆったり浸かってみたいと、
壁の配線達がかじかんだ体でポスターを覗き込む。

「壁さ向がて座てんのも、どうがど思うんだげんと」
「えんつたげで人さ背向げっだみだいだずねぇ」
花咲くプランターを抱くまであと数ヶ月。

「歩き辛くて、足ば動がすのやめっだぐなるぅ。
んだて雪がしゃねこめ足さ罠かげてくるんだじぇ」
それでも雪はいつしか消える。不況の暗雲はいつ消えるか分からない。

空中にはぷっくり膨らんだ春の兆し。

ベタベタに張り付いた雪が枝をしならせる。
蔵は冬が去ったあとに芽吹いた様子を頭に描いている。

「腹くつい〜」
「雪はゴミより始末われぇ」
口から泡を吐き出すようにゴミ篭が呻く。

「重だくて耐えらんねぇ」
べっとりした雪が覆い被さり、トタンを窮地に陥れる。

「おらだも屋根付きの部屋さ住んでみっだい」
「おれだったら二階の端の部屋がいいなぁ」
「どうやって登て、どうやって降りんのや」
雪に埋もれ、夢を語り合う自転車。

重装備で襲ってきた米軍へ、竹槍で挑むような雪かき。
二月に入り、終戦は近いと分かっているから気分的に心は軽い。

一小の時計台が遠くに見える。
しかし雪かきに没頭する人々には、目の前の雪しか目に入らない。

サッカーのネットにまでこびりつく雪。
昨日の雪は、突然カウンターで攻め上がりゴールを襲う。

「みんなおっきぐ口開げっだがぁ」
「心ば一づにすねど合唱でぎねがらなぁ」
「なしてこだい寒い時練習さんなねのやぁ」
不満に口を尖らせるタイヤも出始める。

五小のグランドでは遊ぶ姿もない。彩りも無い。
この陰鬱な季節があるから、山形の春は爆発するように花開き、野山は百花繚乱の彩りを見せる。

帰宅し魚眼レンズで窓の外を見る。
まもなく立春なのにどこを見渡しても白い屋根が連なり、雪の上の足跡が細々と伸びるだけ。

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