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お母さんがおっぱいで赤ちゃんにお乳を飲ませる--。一見、当たり前のように思える母乳での子育ては、実は母親1人ではなかなか難しい。県内ではここ数年、母乳育児に積極的に取り組む病院が増え、支援する環境作りが進んでいる。県内での取り組みを追った。【鈴木久美】
栄養を与えるだけでなく、母と子のきずなをはぐくむ母乳。青森市茶屋町の「マンマケア・まつえ助産院」院長で助産師、松江喜美代さんは母乳育児について「人間の信頼関係の原点」と話す。母親の育児行動を促すことも分かっており、母子ともに大きなメリットがあるという。
06年度の県のアンケートでは、妊娠中に母乳で栄養を与えたいと考えている母親は半分以上。ミルクなどの人工的な栄養と母乳を併用したいと考える母親も含めると、母乳育児を望む母親は9割に及ぶ。しかし、青森市では生後3カ月の乳児を母乳で育てている割合は33・9%。母乳と人工栄養の併用を合わせても約65%にとどまった。多くの母親が、母乳育児を望みながら実際にはうまくいっていない実態が浮かんだ。
松江さんは「母乳育児は非常に根気がいる」と話す。新生児に母乳を吸わせるのは簡単ではない。初めにミルクに慣れてしまうと、なかなか母乳を吸わなくなり、抱き方や吸わせ方の技術も必要だ。また出産後すぐに職場復帰したり、健康上の問題から母乳育児をあきらめざるを得ない母親も少なくない。
県や青森市の担当者は「お母さんによって子育ての考え方や事情が違う。行政が母乳育児を全面的に進めるのは難しい」と話す。県内で母乳育児を積極的に進めているのは、医師や助産師ら医療関係者と産科施設だ。その中の一つ、津軽保健生活協同組合健生病院(弘前市)は06年、ユニセフと世界保健機関(WHO)から「赤ちゃんにやさしい病院(BFH)」に県内で初めて認定された。BFHとは「母乳育児成功のための10カ条」を順守する産科施設だ。
10カ条には「母親が出産後30分以内に母乳を飲ませられるように援助する」「医学的な必要がないのに母乳以外の水分、糖水、人工乳を与えない」など、母乳育児のための厳しい条件が並ぶ。07年には国立病院機構弘前病院(弘前市)もBFHに認定された。同病院の野村由美子医師によると、認定条件を満たすには「院内全体で母乳育児を進めようとする高い意識と努力が必要」という。
健生病院や弘前病院では、退院後も助産師外来を受け付け、母乳育児などの相談にのっている。野村医師は「母乳育児は簡単ではなく、ストレスもたまる。長期にわたってお母さんをサポートしていく環境が大切」と指摘する。実際に検診を受けた母親(32)は「お乳を飲まずに泣いて大変だった。母乳をやめようと何度も思ったが、相談してからうまくいくようになった」と話している。
07年、県内の医療従事者らは母乳育児を広げる「あおもり母乳の会」(弘前市)を設立した。会員は約70人で年に数回、勉強会を開いている。また、県内で複数の病院がBFHの認定を目指す取り組みを進めるなど、支援の輪は徐々に広がっている。
想像以上に根気がいる母乳育児。その難しさに出産後、初めて気付く母親も多い。今後も母乳育児の環境作りを進め、理解が広がってほしいと感じる。
「あおもり母乳の会」は一般の会員も募集している。母乳育児に興味のある人なら誰でも入会可能。年会費1000円で勉強会などに参加できる。問い合わせは健生病院小児科の長谷川弘美さん(ファクス0172・32・1176)へ。
毎日新聞 2009年2月2日 地方版