◎景観づくり活動 ふるさと教育につなげたい
石川県は今年施行した景観総合条例に基づき、良好な景観づくりを推進する地域のリー
ダー育成に乗り出す。今月中旬に「いしかわ景観びとセミナー」と銘打った研修会を開催する予定であるが、景観形成活動で重要な点は、まず住民が地域の景観の価値に気づき、自分たちが景観づくりの主役であるという意識を高めることである。美しい自然景観、地域固有の歴史に裏打ちされた文化的景観を県民共有の資産として認識することは「ふるさと教育」そのものといえ、永続的な景観学習が望まれる。
優れた景観の形成は県市町一体の取り組みが重要であり、金沢市と小松市では先ごろ、
景観を考える市民の会議が相次いで開かれ、金沢市では景観の向上をめざす各種活動に協力する「景観サポーター」が初めて任命された。
両市の景観会議は、いずれも景観の顕彰制度の周年記念催事として開かれたが、意識啓
発を図る勉強会や討論会は今後定期的に開催する必要があろう。さらに考えてほしいのは、児童生徒の景観学習を拡充することである。
全国の例を見ると、景観学習の副読本の作成、景観の専門家を小学校に派遣して開く出
前教室、町並み探訪の屋外学習など、それぞれ工夫を凝らした景観学習に取り組む自治体がみられる。
子どもたちが見慣れた風景を見つめ直し、人間の営みによって景観が良くも悪くも変化
することを知り、より良い景観について思いをめぐらせることは、ふるさとへの愛着を深める歴史教育であり、環境教育でもある。観光客が訪れる名所だけでなく、日々過ごす生活圏の中に見られる景観の良さを認め、それを維持、向上させる大切さを学ぶことで、公共心も大いにはぐくまれるであろう。
県の計画では、今月初めて開く「景観びとセミナー」の受講者や景観に関連した地域活
動に熱心に取り組んでいる人たちの中から「景観づくりリーダー」を委嘱することになっている。また専門的な知識を持った「景観アドバイザー」も置かれる。こうした人たちが小中学校での景観学習に協力することも考えられよう。
◎ソマリア海賊対策 海保派遣論は非現実的
アフリカ・ソマリア沖で暗躍する海賊対策で、海上自衛隊ではなく、海上保安庁の艦船
を派遣すべきとの声がくすぶっている。海上警備行動は、海上保安庁で対処できない場合、自衛隊に発令されるが、海保の艦船でなぜできないのか検証が足りないという主張である。
だが、海保の所属船は沿岸警備が主任務であり、遠洋航海に耐え、高速走行できる巡視
船は一隻しかない。交代の艦船を用意できないため、特定の乗員に長期勤務を強いることになるばかりか、武器の威力や装甲という点で見劣りがする。巡視船の派遣は非現実的と言わざるを得ないだろう。
そもそも、ロケット砲などの重火器を備えたソマリアの海賊に、巡視船一隻だけでは不
安がある。乗員の安全を第一に考えるなら、自衛隊の艦船を複数派遣し、十分な戦闘訓練を積んでいる自衛官が警戒にあたり、海賊の身柄拘束などの司法警察業務は同乗した海上保安官に任せるのが一番合理的な方法である。
海上保安庁の艦船で、遠洋航海に使えるのは、プルトニウム運搬船護衛用に特別に建造
された「しきしま」だけと考えていい。ヘリコプター二機を搭載できる世界最大の巡視船で、35ミリ連装機関砲二基、20ミリ機関砲二基を装備し、小型高速の武装艇を追跡できるだけの速力を持っている。
ただ、いくら高性能でも一隻だけではどうにもならない。第一、「しきしま」は尖閣諸
島周辺海域の警戒に必要であり、日本近海に置いておくことが望ましい。ソマリア沖の警備は、海上自衛隊の護衛艦が無理のないローテーションを組んで行うべきだ。
海上警備行動では、正当防衛と緊急避難に限り武器使用が認められている。それでも武
器使用の基準があいまいなままでは、現場はたまったものではない。海上警備活動を「つなぎ」として、新たに海賊対策法を成立させ、武器使用基準を緩和し、外国船舶や外国人船員を保護できるようにすべきだ。今国会で、自衛隊の海外派遣の枠組みを定めた新しい法案づくりを急いでほしい。