【ロンドン=木村正人】クジラを捕るか、それとも欧州連合(EU)に加盟して単一通貨ユーロを採用するのか−。金融危機で国内経済が破綻(はたん)寸前に陥ったアイスランドの国論が揺れている。EUに加盟すると、基幹産業の漁業を支える水域を解放して、捕鯨も断念せざるを得ない。だが、「金融立国」の夢が破れたいま、同国内では、ユーロ圏の一員となって通貨を安定させるのが経済再建の近道という声が強まっている。
アイスランド政府は金融危機の直撃を受けた昨年10月、国内大手銀3行を国有化し、翌11月には国際通貨基金(IMF)から緊急融資をあおいだ。経済政策の失敗を批判されて政権与党、独立党のハーデ前首相は1月26日に辞任、連立政権が崩壊した。現在、グリムソン大統領の要請で第2党の社会民主同盟を中心に連立協議が進められ、新首相には女性のシグルザルスドッティル社会問題相が就任する見通しが強まっている。
社会民主同盟はEU加盟推進派だが、連立を組む緑の党は慎重派だ。
漁業は輸出の6〜9割を占めてきた基幹産業だが、EUに加盟すると、漁獲高がEU域内の国別割り当てによって制限されてしまう。このため同国はEUに非加盟の立場をとり、自国の漁業水域を守ってきた。
しかも、EUは捕鯨反対だ。2006年10月に商業捕鯨を約21年ぶりに再開したアイスランドとは真っ向から対立している。日本に鯨肉を輸出する捕鯨会社のロフトソン社長は「EUに加盟すれば水産関係の仕事は減る。入るならユーロより米ドルがいい」と話す。
だが、今回の金融危機で国民の多くが自国通貨アイスランドクローナの弱さを痛感した。「EUに加盟してユーロを採用していれば、金融機関の完全崩壊という最悪の事態は回避できた」とアイスランド大のハラルドソン教授は指摘する。最近の世論調査でも、EU加盟支持派が約半数を占めるようになった。
社会民主同盟も緑の党もEU加盟交渉開始の是非を国民投票で問うべきだとの考えでは大筋で一致しており、4〜5月に予定される総選挙と同時に国民投票が実施される可能性が急浮上している。
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