投稿日：2009-02-01 Sun
近時、いわゆる「ゼロゼロ物件」などで、家賃の支払が少しでも遅れた際に、様々な名目で高額な違約金等を請求されたり、鍵交換等の方法で強引に退去を迫られたりする被害が相次ぎ、大きな問題になっています。業者は特約を根拠として高額な違約金を請求したり強引に退去を迫ったりしますが、高額な違約金などの特約は、法律や判例・実務上、無効とされたり効力が一定範囲に制限されたりすることがほとんどですので、法律等を知っていれば、鍵交換等の実力行使を防ぐことまでは難しいですが、違約金等に関しては被害を減らし、または不当利得として返還を請求することで被害を回復することが出来ます（消滅時効は１０年）。
そこで、今回から数回に分けて、（１）賃料支払が遅れたことによる損害賠償ないし違約金、（２）賃料不払による建物賃貸借契約契約の解除、（３）保証業者からの求償、（４）鍵交換等による自力救済、などに関する法律・判例や実務について書いてみたいと思います。
第１回は、（１）賃料支払が遅れたことによる損害賠償ないし違約金に関する基礎知識編。
まず、賃料支払が遅れた場合の損害賠償請求権の発生根拠は民法４１５条前段で、金銭の支払が遅れたことについて無過失でも不可抗力でも免責されません（民法４１９条３項）。損害賠償すべき金額については以下の通りです。
�‖山嫁綵�額の予定や違約金の定め等の特約がない場合。
特約がない場合、賠償すべき損害の額は法定利率によって計算した額になります（民法４１９条１項本文）。計算式は、
「損害の額＝（期限までに支払うべき賃料の額−既に支払った額）×法定利率×支払が遅れた日数÷その年の日数」
となります。「法定利率」は、契約が商行為であるときは年６％（商法５１４条）、そうでないときは年５％（民法４０４条）ですが、会社法５条または商法５０２条１号により商行為となることが多いので、多くの場合は年６％になります。法定利率よりも約定利息の利率の方が高いときは約定利息の利率によって計算しますが（民法４１９条１項但書）、賃貸借契約で利息の約定をすることは普通はありませんし、実際聞いたことがありませんので、特に気にする必要はありません。
「支払が遅れた日数」については、支払期限の翌日から起算します。「その年の日数」については、平年なら３６５日、閏年なら３６６日になります（と書くのは簡単ですが、実は閏年については難しい問題があったりします）。
１円未満の端数については、５０銭未満であれば切り捨て、５０銭以上であれば切り上げになります（通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律３条１項）。例えば、貸主が会社で建物賃貸借契約が商行為であり、平年に賃料５万円を５日遅れて支払うという場合であれば、
「５万円×６％×５日÷３６５日＝４１円９銭・・・」なので、４１円が賠償すべき額になります。
なお、実損害額が法定利率によって計算した額より少ないときでも法定利率によって計算した額を請求できる反面、実損害額の方が法定利率によって計算した額よりも多い場合であっても、法定利率によって計算した額しか請求できず、例えば、催告費用等がかかったとしても、法定利率によって計算した額に加えて催告費用を請求するようなことは出来ません（最高裁平成４８年１０月１１日判決・判例時報７２３号４４頁）。
��損害賠償額の予定や違約金の定め等の特約がある場合。
損害賠償額の予定がある場合は、損害賠償すべき金額はそれによります。「違約金」は反証がない限り、損害賠償額の予定として扱われます（民法４２０条３項）。損害賠償とは別に違約金を支払う定めがあれば、損害賠償の他に違約金を支払うことになります。
ただし、平成１３年４月１日以降に事業者と消費者の間で締結された契約に関しては、金銭の支払が遅れた場合の損害賠償額の予定ないし違約金の定めについて上限規制があり、損害賠償額の予定と違約金の定めの金額を合算した額が年１４．６％で計算した額を超えるときは、超える部分について無効になります（消費者契約法９条２号・同附則）。
（なお、消費者契約法の適用の有無にかかわらず、著しく高額な損害賠償額の予定や違約金の定めは公序良俗違反として全部または一部が無効になることがあります。）
消費者契約法における「事業者」の定義は、「法人その他の団体及び事業として又は事業のために契約の当事者となる場合における個人」であり、ここでいう「事業」とは反復継続して行うということですので、貸主が会社であれば無条件で、個人であれば反復継続して不動産を賃貸している場合は「事業者」に該当します。賃貸用アパート等を賃貸しているような場合は反復継続して賃貸しているはずで「事業者」に該当しますので、ほとんどの貸主は「事業者」に該当します。貸主が居住していた建物を長期出張・療養等で一時的に使わなくなったので一時的に賃貸に出すような場合は反復継続性がありませんので「事業者」に該当しません。
「消費者」の定義は、「個人（事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。）」ですが、個人が居住用に建物を借りるような場合は「事業として又は事業のために」でないことが明らかですので「消費者」に該当します。
なので、ほとんどの場合、損害賠償額の予定や違約金の定めがあったとしても、
「（期限までに支払うべき賃料の額−既に支払った額）×１４．６％×支払が遅れた日数÷その年の日数」
を超える部分については支払う必要はありません。なお、１円未満の端数については、切り上げてしまうと上限を超えてしまうため常に切り捨てです（なお、利息制限法１条の事案について神戸地裁支部平成１６年１月１５日判決・兵庫県弁護士会消費者問題判例検索システム）。特約には様々なタイプがありますが、比較的よく見られる問題のある特約としては、
（ア）「賃料を期限までに支払わなかったときは、年３０％の割合による遅延損害金を支払う」
（イ）「賃料を期限までに支払わなかったときは、１万円を支払う」
（ウ）「賃料を期限までに支払わなかったときは、年１４％の割合による遅延損害金に加えて３０００円を支払う」
（エ）「賃料を期限までに支払わなかったときは、年１４％の割合による遅延損害金に加えて催告費用として３０００円を支払う」
（オ）「賃料を期限までに支払わなかったときは、年１４％の割合による遅延損害金に加えて催告費用・弁護士費用その他の取立費用を支払う」
というような特約があります。（ア）は消費者契約法施行前はよく見られた特約で、現在でもたまに見かけますが、年１４．６％によって計算した額を超える部分については無効ですので支払う必要はありません。
（イ）・（ウ）のような特約の場合、年１４．６年を超えるかは賃料の額によりますが、年１４，６％によって計算した額を超える部分は無効であり、例えば、平年に賃料１ヶ月分５万円の支払が５日遅れたという場合であれば、「５万円×１４．６％×５日÷３６５日＝１００円」が上限になりますので、それを超える部分については支払う必要はありません。
（エ）のような特約の場合、「催告費用として３０００円」という特約なので、支払が遅れたとしても催告前に支払ったときはどうするのかが明確ではありませんが、「催告前なら３０００円については支払わなくても良い」という趣旨とすれば、催告前であれば年１４．６％を超えませんので問題にはなりませんし、催告後については（ウ）のような特約の場合と同様の扱いになるものと思います。
「催告前であっても（いずれ催告するための費用として）○円についても支払わなければならない」という趣旨とすれば、「催告費用として」の部分はこういう損害が発生する（発生し得る）のでこれだけの金額を請求できるものとするという趣旨を明らかにしているだけで、（ウ）のような特約と全く同じ単なる損害賠償額の予定ですので、（ウ）のような特約の場合と同様の扱いになります。
（オ）のような特約の場合、「年１４％の割合による遅延損害金」は損害賠償額の予定、「催告費用・弁護士費用その他の取立費用を支払う」は一種の違約金の定めの性質を持つものと考えられますので、年１４％の割合による遅延損害金と取立費用の額を合算した額が年１４．６％を超えるときは、超える部分については特約は無効であり支払う必要はないものと思います。
仮に、「催告費用・弁護士費用その他の取立費用を支払う」が損害賠償額の予定ないし違約金の定めの性質を有しないとしても、「事業者・消費者間でいかなる合意をしたとしても、金銭の支払が遅れたことを理由としては年１４．６％によって計算した額を超える金額を請求をすることは出来ない」とする消費者契約法９条２号の趣旨から、遅延損害金及び取立費用を合算した額が年１４．６％によって計算した額を超えたとしても、超える部分については請求出来ないものと思います。
（なお、取立費用については全額が認められるわけではなく、具体的事案において必要かつ相当とは言えない範囲については特別損害として原則として請求できない（民法４１６条２項）か、または信義則上の損害軽減義務違反として請求することは許されないものと思います。
例えば、電話での催告や普通郵便での督促書の郵送は、常識的な回数であれば必要かつ相当と思いますので、その電話代や郵送料は賠償すべき取立費用として認められると思いますが、支払が数日遅れたという段階で遠方から新幹線やタクシー等を利用して借家を訪問し催告するようなことは必要かつ相当とは言い難く、借主としても通常想定しているとは言えず、また、貸主自ら損害を拡大している意味合いもありますので、取立費用として請求することは認められないと思います。）
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