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無分別の智恵 2009年01月31日

 日常使う言葉には仏教語が少なくないが、意味がひっくり返っているものがある。「無分別」もその一つ。思慮を欠いた悪い意味で使われるが、本来は主体と客体との対立や自己執着を超えた智恵とされる(宮坂宥勝「仏教語小辞典」ちくま学芸文庫)▼理性で善悪を区別して判断する「分別」は、どこか人ごとだったり、自己満足で済ます傾向がないだろうか。例えば、頭では分かっているが、感情が付いていかないことがある。周囲の人々や出来事と一線を画した「分別」ゆえに生じる葛藤[かっとう]でもあろう▼国立ハンセン病療養所の菊池恵楓園(合志市)に対する市民アンケートでも複雑な思いがうかがえる。入所者は「隔離政策や偏見、高齢化のため、病気が治っても住まざるを得ない」と正しく理解している人が六割だった▼半面、「訪問するのには抵抗感がある」「かかわりたくない」という声もあった。分別ある専門家が巡らせたコンクリート壁は一部取り壊されたが、外と内を隔てる心の壁はまだ残っている▼「園の場所を知っているだけ」「入ったことはあるが、中のことは知らない」が八割。「付き合いがある」は5%にとどまった。地域と隔絶された一世紀を物語る悲しい数字だ▼入所者自治会の志村康副会長(76)は「行けども行けども終わりが見えない」と啓発の難しさを痛感する。「桜の季節に散歩がてらに来ませんかと新聞で書いてほしい」。交流を求めて入所者は一歩踏み出した。分別という厚いコートを脱いで足を運びませんか。



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