中国人の少年を軍用車でひき殺したとの場面を悲痛な表情で演じる佐藤さん
上田市真田町傍陽(そえひ)の会社員佐藤一男さん(56)が1日、地元の萩集落センターで、同市殿城の神林益夫さん(87)の戦争体験を基にした一人芝居「Kの悲劇−ある戦争体験者の証言より」を演じた。昨年8月に初演した、上官の命令で朝鮮人女性3人を殺したとの場面に、敗戦後の旧ソ連への抑留体験などを加えた全6幕の「完全版」。市民ら約70人を前に、20代で演劇に打ち込んだ佐藤さんが、個人の記憶からにじみ出る戦争の悲惨さを熱演した。
舞台は、初演と同じく1949(昭和24)年11月の上田。旧ソ連のウズベキスタンやナホトカへの抑留から解放されて帰り着いた軍服姿のKが語るという設定だ。
新たな場面は、敗戦前後が主。Kは「いつ終わるのかという不安と、負けをうすうす感じる中で兵隊の心はすさんだ。私の運転免許取得試験での合格の課題は、後ろ手に縛られた中国人の少年を(軍用車で)ひき殺すことだった…」と、ひざから崩れ落ち、声を震わせて述懐。また、労働力を欲する旧ソ連と帰還兵の混乱を嫌った日本の利害一致で抑留が行われ、8万人の命が失われた−とし、身をかがめて踏ん張りながら絶叫を交えて訴えた。
「戦争の真の恐ろしさや苦しみを目に見える形にしてくれた」と、神林さんは涙。佐藤さんは「本来なら明かしたくないだろう体験を伝えてもらった。風化させないよう演じ続けたい」と話していた。