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伝統の一戦「横浜マVS.東京ヴ」、定着に期待

2008年7月22日

写真  

写真静岡ダービーで盛り上がる磐田(上)、清水サポーター

 英誌「ワールド・サッカー」最新号に“世界の50大ダービー”と銘打った特集記事が載っていた。ここでの“ダービー”は、同じ地域に本拠を置くチーム同士の対戦のみならずエル・クラシコのような伝統の一戦を含んだ広義で使われている。

 1位はまさしくそのエル・クラシコ、レアル・マドリード対バルセロナ(スペイン)。2位はボカ・ジュニアーズ対リバープレート(アルゼンチン)。そして3位に、中村俊輔が所属するセルティック対レンジャーズ(スコットランド)のオールド・ファーム。ひいきのチームやリーグによって異論はあるだろうけど、まず妥当な選択ではないだろうか。ちなみに4位はガラタサライ対フェネルバフチェ(トルコ)、5位はアヤックス対フェイエノールト(オランダ)。

 地域感情や貧富の格差、信教の違いなどの対立を背景に、熱く燃え上がるサポーターが作り出す雰囲気はリーグ最高レベルの試合と相まって、極上の空間が醸成される。上記トップ3の試合はテレビでしか見たことはないが、一度は生で体験したいシチュエーションだ。

 アジアでは、イランにおけるピルズィ対エステグラルが最高位(22位)。国内の審判では判定に難くせがつくので、近年では中立を保つために外国人主審が笛を吹いているとのこと。男だらけの9万人収容のスタジアムで行われるこのダービーは、欧州や南米とはまた違った雰囲気があるはずだ。これは遠目で見てみたい気がする。アジアでは他にカルカッタ・ダービーが48位に入っているが、Jリーグからのカードはなかった。

 英国のサッカー雑誌のお眼鏡にかなわなかったといって特段に大騒ぎする必要はない。しかし、これだけ○○ダービーや△△クラシコがやたらとはびこっている割に目玉となるダービーがないのでは、とちょっと気になった。リーグ創設から15年と歴史が浅いし、クラブやサポーターの背景に貧富の格差や政治性の違いといった遺恨めいた材料がないのも理由のひとつだろう。伝統づくりは時間を要するものだし、クラブ間の遺恨などわざわざ作るものではない。リーグ独自のものが育ってくればそれで良い。

 各クラブが同一地域での対戦以外にも、ユニホームの色など共通項を見つけて、独特なダービーマッチを作り上げる営業努力は時に微笑ましいが、毎節どこかでダービーが行われているかのような飽和状態。多くは単なる客寄せのイベントと化している感がある。『オシムの言葉』の著者である木村元彦氏が、「スタジアムに足を運ぶ地元の住民を消費者としてしか見ていないのでは」(『現代思想』07年6月号)と嘆くのもよくわかる。サポーターの自発性が軽視されている。複数のダービーマッチを抱えるクラブのサポーターにとっても、心底燃える試合とそうでない試合ははっきりしているのではないか。

 清水のサポーターにとっては、同色のユニホームを着ている相手の「オレンジダービー」や甲府(現在J2)相手の「富士山ダービー」よりも、プライドをかけた戦いになるのは磐田相手の「静岡ダービー」のはずだ。駿河国対遠江国の代理戦争とも言われ、ヤマハ発動機として先にJSLに参戦していた磐田にすれば、清水にJリーグ加盟で先を越された経緯もある。サッカーどころだけあって現在一番の盛り上がっているダービーだろう。「Jリーグの日程が発表されるとダービーの日を確認し、それを思うと、いてもたってもいられなくなる」とある清水サポーターは語る。こんな感情がわき起こるカードがいくつもあるはずがない。時節や対戦相手によって趣向を凝らしたイベントをそれはそれで楽しみつつも、心血を注ぐダービーマッチはひとつあれば十分ではないか。

 古くからのサッカーファンとしては、ありきたりながら横浜Fマリノスと東京ヴェルディが伝統の一戦として名実ともに定着してくれることに期待している。が、下位に苦しんでいる現状ではそれどころじゃなさそうだ。(金漢一)

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