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社説1 ダボスが示す危機の深化と指導者たち(2/2)

 世界経済危機が進行するスピードの速さと、危機への対応で先頭に立つ指導者の不在――。それが今年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)で多くの参加者が感じたことではなかったか。

 1年前を思い起こしたい。当時、一番のリスクは金融システムといわれたが、事態がここまで悪化すると想像した人はほとんどいなかった。米国の経済の基礎的条件はなお健全ともいわれていた。この1年間の変化はあまりにも急だった。

 今回の会議ではビジネス、政治、行政など各界の協調が必要であり、それぞれが問題解決に責任を持つべきだとの認識が共有されたようである。だが、それだけでは不十分だ。危機対応は時間との勝負である。それぞれがやるべきことを急がなければならない。

 特に主要国政府の指導者は4月の主要20カ国・地域首脳会議で、金融システムを立て直す成案を得る最大限の努力をすべきだ。

 今回の会議で特徴的だったのは、「主役」の不在である。米国発の金融・経済危機が語られ、米国批判が相次いだが、肝心の米国からの参加者は例年より少なかった。政策担当者からのメッセージはゼロに近い。オバマ大統領の特使のスピーチは抽象的で政策への具体的な言及はほとんどなかった。

 存在感を示したのは中国とロシアだった。両国のリーダーはダボス会議の初日に演説し、米国型システムを批判しつつ、自国の世界への貢献を訴えた。今回のダボス会議は多極の時代を象徴してもいる。

 だが、中ロ両国も力不足である。これからの世界経済秩序への構想が描ききれていない。

 温家宝首相は自国の経済政策を具体的に説明したが、それ以上は踏み出さなかった。ロシアのプーチン首相は「ドルへの過剰依存」の危険性を指摘したが、新しい通貨制度への道筋を明確に示してはいない。

 ダボス会議は、国際世論が形成される場のひとつである。多くの指導者が訪れ、自国をアピールする。今回は過去最多の41カ国の首脳が参加したという。

 日本からは麻生太郎首相が参加した。首相としては3人目である。首相は様々な分野における日本の政策を説明し、世界への貢献を訴えた。その積極姿勢を評価したい。

 演説は包括的ではあったが、最大の問題というべき金融・経済危機への踏み込みは十分だったか。世界的な危機の克服を主導する力は欠いているといわざるを得ないだろう。

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