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社説:ビザなし交流 継続へ日露は知恵を出し合え

 日本国民と北方四島に住むロシア人が旅券や査証(ビザ)を持たずに相互訪問する「ビザなし交流」の継続が危ぶまれる事態になってきた。四島住民に人道支援物資を届けようとした日本の訪問団に、ロシア側が初めて出入国カードの提出を求めてきたからだ。

 日本側は、カード提出は北方領土に対するロシアの主権を認めることになるとして拒否し支援物資を積んだまま帰港した。これに対しロシア側は、関係が悪化してもロシアは責任を負わないとの外務省声明を発表して日本を非難した。

 日露両政府は事態収拾へ外交レベルで協議を始める。しかし、ロシア側は出入国カードの記入は「国内法の要請だ」として今後もカード提出を求める構えを崩していない。話し合いがこじれればビザなし交流事業そのものが中断されることになりかねない。

 今回の事態を招いた主な責任はロシア側にある。千島歯舞諸島居住者連盟に対する政府補助事業としての現行の人道支援は03年度から行われているが、北方四島上陸の際に必要なのは日本政府発行の身分証明書などだけでよいというのが日露間のルールだった。

 ところが日本の外務省によると、今回ロシア側は訪問団出発の直前に「06年の国内法改正で出入国カードの提出が必要になった」と外交ルートで連絡してきたという。これでは一方的な約束違反と言うしかない。

 そもそも、この人道支援事業にも適用されてきたビザなし訪問を可能とする根拠は、1991年10月に交わされた日本と旧ソ連の外相間の往復書簡にある。これは同年4月にソ連元首として初めて訪日したゴルバチョフ大統領が提案したビザなし交流の枠組みを取り決めたものだ。

 それによると、ビザなし交流の目的を「領土問題解決までの間、相互理解の増進を図り領土問題の解決に寄与すること」としたうえで、「いずれの一方の側の法的立場をも害するものとみなしてはならない」と規定している。

 北方四島についてはその帰属をめぐって日露が対立している。その地域に入るにあたって出入国カードを提出するとなれば、日本の法的立場が損なわれることになる。ロシア側の態度はその点においてもルール違反である。

 1992年に始まったビザなし交流事業による相互訪問者は、07年度までで約1万5000人にのぼる。一部に「領土問題解決に役立っていない」とか「観光事業化してきた」などの批判もあるが、今回のような形で中断されれば日露関係に与えるマイナスは大きい。

 春になればビザなし交流や北方領土墓参などの訪問事業のシーズンになる。これらの交流継続に影響を与えないよう双方が知恵を出し合う必要がある。

毎日新聞 2009年2月2日 東京朝刊

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