アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
政府が「減反政策」の見直しに取り組み始めた。現在はコメの消費量減少に合わせて生産量を減らすため、農家がコメの生産をやめて他作物に転換すれば補助金を出している。官民一体で、米価を支えるため需給を調整する「生産カルテル」だ。
その改革案を夏までにまとめるため関係6大臣の会合が発足した。河村官房長官と石破農林水産相を中心に財務、経済財政担当、総務、経済産業の大臣が参加する。財政や地域政策なども含め多面的に検討しようという意気込みがうかがえる。重い腰をあげて農政改革へ乗り出すことを歓迎したい。
朝日新聞の昨春のシリーズ社説「希望社会への提言」は、「コメの生産調整をやめ、増産へ大転換しよう」と訴えた。石破農水相は「タブーをもうけず、あらゆる角度から議論する」と話している。減反を廃止し、新しい農政へ思い切って踏み出してもらいたい。
民主党も改革案を発表した。1兆円を投じて戸別所得補償制度を導入するという。欧米でも導入されている農家への直接支払いだ。しかし、民主党は減反を続けるとしている。これではなんのための新制度かはっきりしない。また、大半の農家を補償対象としているので、ばらまき的な「農家版の定額給付金」になりかねない。強い農家を育てる誘導策を組み込むべきだ。
減反が本格的に始まって約40年。政府はこれまでに約7兆円もの税金と膨大な労力をつぎ込んできた。その結果、食糧自給率は主要国で最低水準の40%へ落ちた。耕作放棄地と休耕田を合わせた面積は東京都の3倍近くにまで増えた。もはや弊害は座視できないほど広がっている。
もっとコメを作りたいという農家にも減反を迫る「締め付け」が全国の農村でおこなわれているのだ。一方で、農業人口335万人の6割近くが引退間近の65歳以上なのに、受け継ぐ世代が育っておらず、新規参入も少ない。出るくいが打たれるような職業に若者が魅力を感じるはずがない。
昨春、高騰した穀物の国際価格は、世界同時不況の影響もあって今は落ち着いている。だが世界人口の増加と新興国の経済成長が続く限り、食糧が不足し高騰することは間違いない。日本がこれまで通り大量の穀物輸入を続けられる保証はないのだ。
いまこそ農業改革を進めるときだ。
減反政策をやめてコメ増産にかじを切る。主食用の需要が減っているので、米粉を小麦の代わりに普及させる。飼料米の生産を拡大する。さらに、生産性をあげるため耕作規模拡大を促し、将来性ある農家を重点的に支援する制度改革も不可欠だ。企業の農業参入も実現しなければならない。
処方箋(せん)はこれほどはっきりしている。後は実施するだけだ。
福井県敦賀市にある高速増殖原型炉「もんじゅ」が運転を再開できないでいる。95年12月のナトリウム漏れ事故の後、13年余も止まったままだ。
昨年、屋外の排気ダクトの腐食が見つかった。その影響で安全性を最終確認する試験が遅れ、目標だったこの2月の運転再開が難しくなった。日本原子力研究開発機構は、そう説明している。これで4度目の延期だ。
次の再開目標は今年12月ともいわれるが、原子力機構ははっきりと時期を示していない。この際、もんじゅへの不安や疑問を見つめ直してみたい。
なにより気になるのは、原子力機構の安全意識や品質管理体制である。
ナトリウム漏れ事故の際、当時の動力炉・核燃料開発事業団による虚偽報告や情報隠しが厳しく批判された。その後、原子力機構は組織をあげて体質の改善に努めてきたはずだ。
ところが、昨年、ナトリウム漏れ検出器が誤警報を出した際、自治体などに迅速に通報しなかった。排気ダクトの問題でも、補修を怠って傷口を広げた。特別保安検査をした経済産業省原子力安全・保安院からも昨年、「謙虚な姿勢がない」と厳しく批判された。
運転を再開したとしても、また事故やトラブルの際の対応を誤れば、もんじゅの信頼は完全に失墜するだろう。そんな危機感が足りな過ぎる。
また、これほど長く眠っていた原子力発電施設を目覚めさせようとした例は、海外にもほとんどない。長期間に及ぶ運転休止中に、設備に不具合が生まれていないかという懸念もある。
そんな不安を抱えつつ、運転再開する必要があるのだろうか。もんじゅの存在意義にかかわる疑問さえ浮かぶ。
高速増殖炉は消費した以上の燃料を生みだす「夢の原子炉」といわれ、原発の使用済み燃料を再処理して使う核燃料サイクルの基幹施設だ。政府は2025年ごろに実証炉をつくり、2050年ごろの実用化をめざしている。
その前段階の性能確認施設として85年に着工したのがもんじゅである。建設に5900億円かけたのに加え、事故後は179億円で改造され、停止中のいまも年平均98億円が費やされている。運転が始まれば毎年150億〜180億円が必要という。
これほどの巨費に見合うどんな具体的な成果が期待できるのか、いま一つはっきりしない。もんじゅの周辺では新たな活断層も見つかっており、耐震性の不安もある。「国策の施設だから動かして当然だ」という姿勢ばかりでは国民の理解は得られまい。
資源の少ない日本にとって、ウランを有効利用する高速増殖炉の意義は大きいと政府は説明してきた。しかし、もんじゅが計画通りに実用化できるのか不透明だ。高速増殖炉開発の道筋を再考し始める時期かも知れない。