【回答者】NTTデータ経営研究所 情報戦略コンサルティング本部 シニアマネージャー 上瀬 剛
Q 電子契約サービスというものがあるそうですが、その概要と導入による効果を教えてください。(スポーツ用品卸売業)
A 「電子契約」すなわち二者間の取引における売買契約についてネットワークを通じて電子的に行う仕組みが、企業間を中心として現在急速に普及する兆しを見せ始めています。
電子契約という言葉は、「電子的な方法により締結された契約」、「コンピュータ・ネットワーク上で締結された契約」等さまざまな定義がなされていますが、ここでは「契約書の作成、署名、受け渡し、保存、参照の一連の契約に関する業務をすべて電子的に行うこと」と定義します。
実際に電子契約の導入により利用者が享受するメリット、あるいは導入において必要とされる情報技術は、電子化レベルで大きな違いがあります。
技術面では、「改ざんが容易で、痕跡が残らない」「記録媒体の経年劣化による内容消失の可能性」「いつ作られたかわからない」「誰によって作られたかわからない」といった電子文書特有の保存・管理上の問題点がありましたが、原本性確保技術、例えば公開鍵暗号方式(PKI)や、デジタルタイムスタンプといったものが近年急速に普及してきており、電子契約普及の大きな力になっています。
電子データ・電子文書の流通・管理に対応した社会的環境では、特に2000年以降急速に整備されてきたと言えます。例えば、企業における帳簿書類の電子保存を条件付で認めた「電子帳簿保存法」(1998年)や、企業間等において書面交付あるいは書面手続きを義務付けている諸法律を一括して電子文書で代替可能とした「IT書面一括法」(2000年)といった法整備が行われました。
さらには、「電子署名法」(2001年)や「e-文書法」(2005年)等、電子文書・電子データを前提とした社会システムへの円滑な移行のためのルール作りも進みました。
電子契約のメリットとしては、電子化による内部業務の効率化効果が期待できます。取り扱い対象が紙から電子にシフトすることで、保管や運搬・輸送に係るコスト・手間の軽減がつながるとともに、紛失のリスクも適切なセキュリティ対策によって軽減させることが期待できます。
契約先や契約数が大量なほどメリットは大きくなります。例えば、契約額が高いほど印紙税額のコスト削減効果が大きいので、高価な調達を行っているような業種(建設業等)において先行して電子契約が導入されていく可能性が高いと言えます。
一方で、通常契約業務と同様、電子契約の場合も、サービスの利用ユーザーやアクセス管理は責任者個人に対して行われるでしょう。しかし、企業内において異動は付き物であり、担当者異動後に別の担当者が案件の処理を行うことができなくなっては困ります。このような場合でも、セキュリティを十分に確保し柔軟に対処できるよう留意する必要があります。
電子契約は、当初の導入はハードルが高いものの、逆に導入企業が一定規模を超えれば、雪崩を打つように普及していく可能性があります。普及のルートとしてまず考えられるのが、印紙税削減をトリガーにして「大企業から契約先中小企業へ」という流れです。
印紙税削減という直接のコストメリットと、電子化による中長期的な業務の効率化、高度化という視点で、電子契約には今後幅広い業種、業務の関係者が注目すべきでしょう。
【回答者】牧野総合法律事務所弁護士法人 弁護士 牧野二郎
Q 最近、ある会社から「共同で新製品を開発しませんか」と打診されました。こういう場合、秘密保持契約を結んでから取り組むべきなのでしょうか。(機械製造業)
A 結論から先にいえば、その通りです。ご質問のように、企業が他の企業の保有する技術を利用し、あるいはその企業と共同で新商品の開発を行うような場合には、まず「NDA」(Non Disclosure Agreement = 秘密保持契約、非開示合意書ともいう)を締結します。
この契約は、事業共同、共同開発などが決定する前に締結されることがほとんどです。交渉の初期段階で、本当に事業共同ができるのか、新商品開発が可能なのかを検討したりするために情報を開示するのですが、それは企業の持つ重要な技術に関する情報や、企画している新製品のコンセプトなどの場合があります。それは貴重な資産であり、しっかりと管理したい情報です。従って、技術情報やアイデアが盗まれてしまったり、第三者に開示されることがないようにしなければなりません。
そこで、互いに開示した情報を使用する目的を限定して、他の目的に利用しないこと、第三者に開示しないことを合意するのです。相手方企業に自社製品の開発を委託したり、自社業務を委託する場合や、自社の保有する重要な情報を開示する場合に締結されます。
ここで、まず理解しておきたいのは、交渉の初期段階に提供した情報は漏洩しやすいということです。すなわち多くの場合、情報が漏洩しても漏洩事実を正確に捕捉できないということに注意すべきです。従って、本当に重要な情報は、交渉が終了して、本契約が締結された後になって初めて開示するなど、強い信頼関係が確立されてから行われるべきです。それ以前に開示する必要がある場合には、漏洩する危険を前提に、事前に加工し、部分的に隠蔽した情報とするか、特許申請などの権利処理を済ませてから提供すべきです。
秘密保持契約で定めておく内容としては、(1)保護すべき情報の具体化と特定が重要となります。守るべき対象が不明確な契約は単なる精神条項となってしまいます。
(2)開示する情報の利用目的、閲覧者を限定します。交渉している事案を特定し、それ以外には使わないこと、そしてその判断をするために必要な人にだけ開示する、とします。下請けや再委託先などに開示する場合も同様です。
(3)提供した情報の管理方法、管理体制については、相手企業の情報管理は内部問題なので干渉することは困難ですが、開示の際に「御社の重要秘密として取り扱うことを条件に開示する」とすることは合理的です。相手企業の保護制度、情報管理規定に沿って取り扱ってもらうことで保護の度合いは強くなります。
(4)終了した際の消去方法、返還方法なども規定しておくとよいでしょう。ただし、手残りを防止することは困難ですから、残っていたら損害賠償することを明記しておくとよいでしょう。
提供開示する情報には、必ず「秘密」と表示すること、通し番号や管理のための番号を付記し、かつ開示者名、交付相手の氏名などを明記しておくことが必要です。開示する情報を厳格に特定することで、安易にコピーしたり、第三者に貸し出した場合でも責任者、管理者が明示される仕組みが重要となるのです。