先ほどのpinchoさんのスレで、友達についての様々な意見を読んでいて、子供の頃を思い出した。

大人になると、新しく友達を作るのが難しくなる。人との出会いには利害が伴うことが多い。趣味の分野ですら、お互いに一家言ある者どうし、尚更確執ができたりする。

子供の頃は、事はそれほど難しくなかった。

Episode 1

ある農村。中では珍しい会社勤めの家の息子が私。隣家は乳牛を飼う農家。私が漫然と牛を眺めていると、見慣れぬ少年が現れた。

「こんちは。君、どこの家の子？」私に呼びかけるその少年の声は澄んでいて、TVから流れてくるような綺麗な標準語だった。「俺、いやボクは隣に住んでる。こんちは。君はどこから来たの？」「東京から。ボクのパパと伯父さんが兄弟なんだ。夏休みだから遊びに来たんだ」「ボクんちに来なよ。何にもないけど、昆虫の標本見せてあげるよ」「うん、行く！」

こうして瞬時に我々は友達になった。普段遊んでいる田舎の子供と違い、沢山の情報を持っていた。野山を歩き、自然の楽しみ方を教えることを対価として、私は彼から都会の生活を聞き出した。

翌年の夏も、その翌年も、彼が来るのが楽しみだった。隣家に彼の姿を見かけると、一年の無沙汰など無かったかのごとく、我々は手を取り合って野山に出かけた。

彼と私が中学生になった夏から、二人が会うことはなくなった。

Episode 2

声変わりし、ニキビができるようになると、事はやや難しくなってきた。勉強の成績が人を分けるかのような圧力が強まり、異性が気になって仕方なくなり、同性とも、ただじゃれ合うような付き合いは退屈できなくなった。

話が合うのは「勉強のできる子」なので、自然にそういう仲間で固まってしまい、不良グループとは距離を置いて反目する構図ができた。

ある日、その不良グループの一人が学校にギターを持ってきた。放課後に教室で弾き出したのだが、めっぽう上手い。無視ができなくなった私は、彼に近付き、話しかけた。「山崎（仮称）、めちゃ上手いな。どうやって覚えたの？」「最初は兄貴からだ。教室にも行ったんだぜ。アルハンブラくらいは弾ける。」「ちょっと弾いてみて」「うむ」「すげー！」「お前、ロックンロール好きか？」「ハードロックかプログレの方が…」「パープル聴くか？」「当然」「大道さん（仮称）、知ってるか？」「いや…」「パープル弾かせたらこの街一番だ。今度の土曜日、会いに行こう。紹介してやる」「本当？　頼む、よろしく！」

その土曜日、待ち合わせた私と山崎は、大道さんの家に行った。鉄工場だった。倉庫に入ると、ドラムとアンプとオルガンが並び、沢山の不良達がたむろしていた。大道さんは高校生くらい。挨拶もそこそこに、私に何か弾けという。やっと覚えたばかりの３コードを弾くと、オルガンで伴奏してくれた。誰かがベースとドラムを入れ、セッション大会になった。不器用にギターを弾く私と、勢いよく疾走する山崎を、大道さんは楽しそうに眺めていた。演奏が終わると、彼は私たちに煙草を与え、「吸うか」とも聞かずに火を付けた。私は煙にむせながら、捨てるわけにはいかず、肺に煙を入れないようにしながら吸う真似をした。ドアに可愛い女性が現れ、大道さんは彼女と出かけた。私は、彼が置いて行ったFender Stratocasterを、穴が開くほど見つめていた。

その日から、私は不良達に混じって、その鉄工場に出入りするようになった。そこでは、音楽の腕前だけが序列の全てだった。私は末席で、彼等の楽しげな演奏を眺めていた。