「ちょっと嘗(な)めたが身のつまり」。少しだけと手を出したことが、とんでもない窮地を招くということわざである。他に悪影響を及ぼせば、負うべき責めは一層重い。
大相撲尾車部屋の十両力士、若麒麟容疑者が大麻取締法違反(共同所持)の現行犯で逮捕された。ロシア出身の元幕内若ノ鵬の逮捕に端を発した角界の大麻汚染問題は一件落着どころか日本人力士へと及び、根の深さをうかがわせる。
日本相撲協会は、昨年九月に武蔵川理事長による新体制の下で再生へと乗り出した。年末には十年ぶりに親方や力士、床山ら全協会員を対象にした研修会を開いて引き締めた。
そして臨んだ初場所は、横綱朝青龍が気力の復活優勝を果たし、大いに盛り上がった。岡山県出身の新十両琴国の活躍ぶりも見事だった。せっかく信頼回復に弾みをつけた矢先の不祥事だけに残念でならない。
若麒麟容疑者は、昨年九月の協会による尿検査で三度目でやっと陰性が確認されるグレーゾーンにあった。もっと多角的に調べられなかったのか。他にはもういないのか。世間の注ぐ視線は一段と厳しさを増そう。
土俵には神がいて、力士の所作には清めの意味合いも多いといわれる。協会挙げて再度まわしを締め直し、角界の基盤に巣くう邪気を追い出さなければならない。