石破茂農相は27日、食料・農業・農村政策審議会(農相の諮問機関、会長・林良博東大大学院教授)に新たな農政の指針となる基本計画の策定を諮問した。焦点は、コメ生産調整(減反)の見直し。廃止されれば、戦後農政の大転換となる。だが、自民党農林族などは、農家への影響を懸念して「生産調整維持」を主張しており、論議の行方は不透明だ。
この日、農林水産省が審議会に提示した検討項目案には「生産調整の見直し」は盛り込まれていなかった。委員の企業経営者やジャーナリスト、大学教授たちが「農村の疲弊は減反をしてきたためだ」「廃止しないと日本の農業は変わらない」「廃止してやる気のある農家を育てるべきだ」などと主張。急きょ、検討課題に浮上した。
減反はコメ消費の減少を受け、米価維持のため1971年から本格導入された。「農家はコメを作りたくても作れず、生産意欲をそいだ」との批判がある。生産調整を守らない農家も恩恵を受けられるため、農家の不公平感が強い。
農水省によると、主食用のコメは水田(270万ヘクタール)の6割で賄える。仮に減反を廃止し、すべての水田でコメを生産すれば、生産量は現在の870万トンから1200万トン以上となり、生産過剰で米価は下がることが見込まれる。
廃止派の委員や専門家は、価格下落によるコメ消費量の拡大、食料自給率の向上を期待する。
政府が改革を急ぐ背景には、世界貿易機関(WTO)農業交渉もある。昨年7月の閣僚会合では交渉が決裂したが「交渉は必ず再開される」(農水省幹部)。日本は大幅な関税引き下げの例外になる「重要品目」の数などで孤立しており、対策強化が課題。価格が下がれば、外国産米との競争力が高まるとみる。
だが、消費量が期待通り拡大しなければ「最悪のシナリオになる」というのが農家や農林族など維持派の主張だ。「農家の所得は減り、離農や廃業を加速させかねない」と警戒する。
昨年12月に「タブーを設けず議論を行う」と見直し論議に火を付けた石破農相はこの日、農政改革担当相として6閣僚による農政改革論議も主導することになった。審議会は10年3月ごろ答申の予定で、政府は新たな基本計画として閣議決定する。
(東京報道部・吉武和彦)
=2009/01/28付 西日本新聞朝刊=