書き込みの娘

　それは、まだ冬の初めのころであったが・・・・・・。
　或夜。
　エンコリのはずれに〔伝統板〕という掲示板がある。この〔伝統板〕は、かつてたいそう繁盛した掲示板であったが、今はさして人も通わず、夜などまことに寂しい場所であったそうな。
  総督府ジョン蔵が、自ら夜廻りをしていると、両国の褌屋〔天然屋〕の娘おkotoが、あるスレに何かを一心に書き付けていた。先日ブス目付の暗黒卿襲撃を企てた凶賊の助命嘆願であった。
「土人妄想改方、総督府ジョン蔵である。おkoto、こんな夜更けにここで何をしておる。」
と、ジョン蔵が尋ねた。
「これはジョン蔵様、良いところでお目にかかりました。申し上げたき儀がございます。」
「何か。申せ。」
「ジョン蔵様は、土人の捏造や妄想のお取り締まりをなさっているお方と伺っております。」
「さよう。それがどうした。」
「ならば、私がジョン蔵様を取り締まります。」
「なんと。」
「これを・・・。」
おkotoは懐から何かを取り出そうとしているが、見つからぬ様子であった。
「なんなのだ。申してみよ。」
「私の人相書にありますパンツ落としの罪は、そこなるしゃおこーの仕業にございます。」
「なんと。あの人相書きは廃人らの報せにより作らせたものじゃ。間違いなどあろうはずはなかろう。」
「ですからこれを・・・」
おkotoは、なおも懐を探っているが、懐中の物を取り出せぬ様子であった。そうするうち、おkotoは乳の下を季節はずれの蚊に食われてしまった。
見かねた写経クソスレ方のしゃおこーが
「これではあらぬか。」
と分厚い帳簿からさくっとログを引き出した。
「それにございます。ジョン蔵様、なにとぞお改めくださいませ。」
と、おkotoは言った。
ジョン蔵は渡されたログを読み
「むう・・・。なるほどこれはわしの見立て違いじゃ。パンツ落としの下手人の人相書きをここなるしゃおこーに描き改めようぞ。」
と、言った。
「ありがとうございます。つきましては、ジョン蔵様には謝罪と賠償をお願いいたします。」おkotoは、凛々と言い放った。
（こやつ、わしと取引きしようとするか・・・。）
笑ったジョン蔵の、その笑いが消えた。
「何が所望じゃ。」
「先だって、ジョン蔵様がお召し取りになった凶賊の放免をお願いいたします。」
そこへ密偵のおhanaが、
「パンツ落としを、おkotoの仕業とジョン蔵様に伝えたのは、みゃーざきのがもじんという無頼者ございます。」
と、言った。
ジョン蔵は、人相書きを描いた日のことを思い起こした。
「ふうむ、そうであったな。ところでしゃおこー、そなたも人相書きを見て下手人は自分だと白状しなかったではないか。」
と振り向きざまに言った。
「たしかにそうでござったが、その方がネタ的に美味しいと思ったでな・・・。ジョン蔵もキャラ立てで固めに入る勢いでござったので敢えて何も申さなかったまで。」
しゃおこーは涼しい顔である。
「こいつ、ぬけぬけと。」

（つづく）