大相撲界の大麻汚染は日本人力士にも及んでいた。幕内経験もある尾車部屋の十両力士、若麒麟が30日、知人のミュージシャンとともに大麻取締法違反(共同所持)容疑で神奈川県警に現行犯逮捕された。
相撲界では昨年、ロシア出身の幕内力士、若ノ鵬が大麻不法所持容疑で逮捕され、これを契機に行われた薬物検査でも同じロシア出身の露鵬、白露山両力士から陽性反応が出た。日本相撲協会は3力士を解雇する一方、白露山の師匠でもある北の湖前理事長が引責辞任。武蔵川理事長のもと、出直しを図ったばかりだ。
わずか半年前、相撲界を揺るがした重い教訓を生かすことができない協会全体のゆるみに強い批判が集まるのは当然だ。
若麒麟は昨年9月の薬物検査の際も、1回目の検査では陰性か陽性か判定しづらく2度の再検査の末、陰性とされた「灰色判定」だった。逮捕当時に所持していた大麻は16グラムと大量で、常習性も疑われる状況だ。
師匠の尾車親方は逮捕翌日の31日、若麒麟の引退届を協会に提出したが、協会は受理せず、2日の理事会で処分などを検討する。安易な解雇や除名という早期決着には「待った」をかけねばなるまい。その前に、事件捜査とは別に若麒麟本人の口から明らかにさせておくべきことがある。トカゲのしっぽ切りで終わらせるわけにはいかない。
まず、事実関係の徹底解明だ。若麒麟がいつ、どういう状況で大麻を手にしたのか。どんな人物が介在したのか。多くの若い力士を抱える相撲界だけに、他の力士だっていつか若麒麟と同じ犯罪に手を染める危険性がある。捜査を警察任せにしておかず、相撲界としてもこの点を明確にしておかないことには、対策の講じようがなかろう。
また、指導の上でどこに問題があったのかを明確にすることだ。とかく番付がものをいう相撲界では教育途上の若者であっても、番付次第で一人前扱いする風潮がある。だが、社会人として必要な素養を身につけているのか。若麒麟のように中学を卒業して15歳で相撲界に入った力士に対しては、師匠は相撲の技術以外の面でも教育責任がある。
解雇された露鵬、白露山と若麒麟には共通点がある。3人とも入門時の師匠と事件当時の師匠が代わっていることだ。若麒麟の場合、押尾川親方の定年で尾車部屋に移った経緯がある。師匠の交代が「放任」の原因となっていないか。
昨年秋の武蔵川理事長の就任に合わせて協会の理事・監事には検察、警察OBらの外部役員が加わった。今回の不祥事に際し、相撲ファンを納得させる、徹底した再発防止策を打ち出すことができるか。新たな公益法人としての認可を目指す武蔵川執行部の真価が問われている。
毎日新聞 2009年2月1日 東京朝刊