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政府は金融機関だけでなく、一般企業の資本増強も支援する方針を決めた。雇用も生産も急速に悪化している中での異例の措置であり、緊急避難といえる。
金融機関については、自己資本の減少が貸し渋りにつながるので、すでに公的資金で資本増強できるように法律を改めた。一方、一般企業の方は資金繰りが何より重視され、自己資本の目減りはあまり意識されてこなかった。
だが、近年、金融機関が自らの経営を健全に保とうとし、融資姿勢を厳格にしている。借り手企業の株価が急落したりして自己資本や純資産の「時価」が大きく減ると、焦げつきの危険が増したとして、融資をやめたり引き揚げたりする契約が増えた。
金融健全化への規制が、景気悪化と金融収縮の連鎖を増幅するようになったのだ。このため、株価が下落すると、借り手企業の資金繰りが連鎖的に逼迫(ひっぱく)する恐れがある。
そこで政府は産業活力再生特別措置法(産業再生法)を改正し、そうした企業の資本増強を支援し、融資を受けやすくするよう準備している。民間による出資の一部に政府が保証をつけるやり方だ。
政府系の日本政策投資銀行や一般の金融機関が、優先株を買うといった方法で企業の資本増強に応じる。企業側は業績回復や構造転換に向けた3年計画をつくって制度の適用を申請する。経済産業相が認定すると、出資金が焦げついても、政府が損失の5〜8割を補填(ほてん)する。
企業が6月の株主総会で増資を議決するのに間に合うように、法改正したいとしている。ただし、これは来年3月までの時限措置の予定だ。きわめて異例な方策だからだ。それを踏まえて考えておくべきことは多い。
まず申請と認定の結果をオープンにし、公明正大に運用することが欠かせない。衰退企業をいたずらに延命させたり、政治的な利害がからんだりしてはならない。
政府が出資するのではなく、出資の主体はあくまでも金融機関なので、金融機関の視点からも対象企業の将来性が事前にチェックされることを期待したい。保護主義に陥らぬように国際的な配慮も必要だ。
対象企業は、国全体や地域経済に生産や雇用で大きな影響があり、3年計画で巻き返せるところに限るという。世界大不況のショックから一時的に企業を守ることに主眼があるが、それだけでなく、中長期の構造転換という戦略的視点も加えた方がいい。
どの産業もエコや省エネへの転換を迫られている。世界で新たな市場を切り開くのに不可欠のものだ。この制度を活用する企業は、次代をにらむビジョン実現へ野心をもってほしい。
中国製冷凍ギョーザに農薬成分メタミドホスが混入していた事件の発覚から1年がたつ。残念なことに捜査は進んでおらず、事件は日中間にトゲとして刺さったままだ。
中国側は当初、中国国内での混入に否定的だった。だが、製造元である河北省の国有企業・天洋食品が、回収したギョーザを中国内で再び流通させ、健康被害が起きていたことが去年夏に明らかになった。
さらに最近になって、回収されたギョーザが去年4月にも、河北省内の約20社に転売され、被害が出ていたことが発覚した。省政府が天洋食品を救うために仲介したようだ。
混入した現場は中国国内という可能性が濃厚となり、中国側は大規模な態勢で捜査を続けてきた。しかし、一時有力な容疑者と見られた人物にはアリバイがあり、振り出しに戻ったようだ。
天洋食品と同じ石家荘市にある三鹿集団が起こした、汚染粉ミルク事件に人手をとられたことも、ギョーザ事件捜査に影響したようだ。
だが、それは言い訳にならない。初動捜査の段階で中国国内での混入の可能性を低く見た中国当局の姿勢がそもそも問題だ。
品質に問題がありそうな食品を転売する。日本では考えられないようなことができたのは、ギョーザ事件が中国内でほとんど報じられていなかったからでもある。汚染ミルク事件でも当局の対応が遅れ、被害を大きくした。
中国共産党はしばしば、社会の安定維持を理由に、人々が不安や恐怖を覚えかねないニュースを流させない。だから、ギョーザ事件が日本の対中感情の悪化に大きく影響していることも、いまだに広くは伝わっていない。
携帯電話やインターネットが普及したいま、情報を隠すことは、逆にデマや誤解の原因になりかねない。中国当局は情報を公開すべきだ。
ギョーザ事件の発覚後、食品を輸入している日本企業は、中国の工場に監視カメラをおいたり、品質管理のための出張者を増やしたりし、より安全確保に努めるようになった。不審な物を持ち込ませないため、作業服のポケットをなくした例もある。厚生労働省も残留農薬検査に力を入れている。
中国産の食料品輸入額は去年、2割以上も減った。天洋食品は操業停止で約1千人が職を失ったといわれ、中国では食料品輸出産業の関係者の多くが苦境にあるという。
信頼回復のためには、中国自身が「食の安全」にもっと敏感になるしかあるまい。それが結局、中国の利益にもなる。日本は、捜査を進展させるように迫ると同時に、技術指導やシンポジウムなどあらゆる機会を使って、食の安全を訴えていくべきだ。