日本郵政の「かんぽの宿」70施設をオリックス不動産に一括譲渡することは鳩山邦夫総務相の反対で一時凍結となったが、約109億円の譲渡額の妥当性を巡る対立が解消したわけではない。総建設費用に比べ「安すぎる」と批判する総務相に対し、日本郵政は「適正な額」と譲っていない。
「2400億円かけて作ったものが、100億円なんてバカなことはない」。鳩山総務相は30日の閣議後会見でこう述べた。日本郵政によると、70施設の土地代は約295億円、建設費は約2107億円。例えばさいたま市の「ラフレさいたま」(00年9月開業)は約286億円をかけたが、08年9月末時点の帳簿価格は約16億円。これも「簿価は簿価として、150億円くらいで売らないと大損する」と指摘した。
一方、日本郵政の西川善文社長は29日の会見で「取得原価をみると、投資(額)がいかにも大きい。どういう考えでそういう投資が行われたのか理解できないところがある」と語り、民営化前に採算を度外視した投資があったと暗に批判した。
07年10月の郵政民営化時点で、70施設の簿価は126億円。日本郵政によると、毎年50億円規模の赤字のため、現在の会計基準に基づき、宿泊施設としての収益力や建物の減価分などを計算するとこの額になる。これは民営化に際し総務省も了承している。ラフレさいたまの簿価が16億円となるのも、赤字続きだからだ。
バブル崩壊後、宿泊施設やオフィスビルの価格は、収益力を基準に決めるのが一般的で、「元の値段(総建設費)はまったく考慮されない」(大手不動産会社)という。70施設の08年9月末の簿価は123億円で、かんぽの宿事業の総資産から負債を引くと、純資産は93億円。59施設は赤字で、全従業員約3240人の雇用維持という条件を考えると、約109億円という価格は適正というのが日本郵政の主張だ。
日本郵政は、検討委員会を設けて施設ごとの売却も含めた選択肢を議論する。しかし、景気の悪化を考えると、総額109億円以上で全施設を売却できる保証はない。【前川雅俊】
毎日新聞 2009年2月1日 東京朝刊