国家公務員制度改革の今後のスケジュールを示す政府の「工程表」の決定が、週明け以降に先送りされた。三十日に国家公務員制度改革推進本部(本部長・麻生太郎首相)の会合で正式決定する予定だったが、前日の自民党行政改革推進本部の公務員制度改革委員会で、修正意見が相次いだためだ。
さらに当日は、組織移管に反発する人事院が会合への出席を拒否し、会合自体が開かれなかった。政府機関が首相主宰の会合をボイコットするのは異例のことだ。工程表決定の見通しは不透明になったといえよう。
昨年六月に成立した国家公務員制度改革基本法を受け、政府の有識者会議が、中央省庁の幹部人事を一元化する「内閣人事局」の構想をまとめたのが昨年十一月半ばだった。来年度予算編成を控え、目標としていた二〇〇九年度中の創設に向けた作業は間に合わず、人事局設置は一〇年四月へ見送りとなった。
その挽回(ばんかい)を狙ったのか、政府は今月中旬、〇八年から一三年までだった改革期間を一年短縮し、一二年までに完了するとした工程表案を有識者会議に提示した。そのうえで、今月内の正式決定を目指して関係省庁との調整作業を進めたが、やや性急の感は否めない。
工程表の最終案では、人事局を「内閣人事・行政管理局」とし、公務員の労働基本権を一二年までに拡大することが柱となっている。具体的には総務省、財務省、人事院、内閣官房の各機関が持つ人事機能を統合する。労働条件を労使交渉で決める公務員の団体協約締結権の範囲拡大については、今年中に別の有識者会議の結論を得た上で、一〇年中に関連法案を国会に提出するとした。
しかし、人事院の企画立案部門の移管をめぐり、谷公士人事院総裁と甘利明行政改革担当相の協議がまとまる見通しは立っていない。一方、国会の代表質問では、官僚OBが再就職を繰り返す「渡り」に関し、麻生首相はそれまでの立場を転換、自らの在任中は政府によるあっせんを全面禁止する考えを表明した。公務員改革で「天下り廃絶」を掲げる民主党に対抗して、麻生政権としても公務員改革への強い決意を示そうとしたことがうかがえる。
公務員の労働基本権の問題など重要な課題は積み残されたままだ。天下りをなくすにしても、早期退職勧奨(肩たたき)の是正など検討しなければならない。改革の実を取るためにも、制度設計を急ぐ必要があろう。
北方四島のロシア人住民への人道支援のため国後島に上陸しようとした元島民や外務省職員が、ロシア当局から出入国カードの提出を要求されたため上陸を断念、支援は中止された。
医薬品などの支援物資を積んだチャーター船は二十九日、北海道・根室港に戻った。四島のロシア人住民には失望感が広がっている。日ロ関係を悪化させかねない状況で、遺憾と言わざるを得ない。
人道支援事業が始まったのは二〇〇三年度からだ。一九九一年の旧ソ連との往復書簡に基づき、日本国民と四島のロシア人住民が旅券や査証(ビザ)なしで相互訪問する「ビザなし交流」の手続きにのっとって行われてきた。今回は医薬品や医療用具など千二百八十万円相当の物資を引き渡す予定だった。
これまで出入国カードの提出を求められたことはなかった。ロシア側は〇六年の国内法改正でカード提出が必要になったと説明、今月に入って日本側に通告してきたという。
日本が出入国カードにこだわるのは、カードを提出すれば北方四島をロシア領と認めたと受け取られかねないためだ。これに対しロシア外務省は、出入国カードは「実務上の必要に基づく法の要請」と正当化し、この問題で日ロ関係が冷却化しても「ロシアは責任を負わない」との声明を発表した。
このままでは、相互理解を深め、領土問題解決に寄与する目的で九二年から続いてきた「ビザなし交流」も停止に追い込まれる懸念がある。
政治問題化することで日ロ間の相互不信を助長させることは避けねばなるまい。二月中旬にサハリンで日ロ首脳会談を開催する方向で調整が進んでいる。政府は事前協議を急ぎ、冷静に事態打開の道を探るべきだ。
(2009年1月31日掲載)