関連スレ:土幕民の食生活 |
http://www.enjoykorea.jp/tbbs/read.php?board_id=phistory&nid=109776
今回も京城帝国大学衛生調査部の報告書『土幕民の生活・衛生』(1942,岩波書店)から、土幕民の生活実態調査の結果を紹介していきます。
「当調査は京城府内及びその付属地に於ける三千数百戸、一万数千人の土幕民の中、東部の龍頭町、条基町、南部の漢江、永登浦、西部の阿峴町、弘濟町、北部の敦岩町 其の他より、556戸を選び 昭和15年4月より7月に至る3ヶ月間、毎週土曜日を利用してなされたものである。」
土幕民の副食物

「平常の献立」=日常食膳に上がる
「時に平素の料理に添加するもの」=何れか一つが 四-五日に一度上がる
「稀に平素の料理に添加されるもの」=何れか一つが一カ月に一・二回上がる。
(汁物)
大別して淡い汁物と 濃く鹹い汁物とある。一般朝鮮過程では淡い汁物と濃い汁物を同時に食膳に並べる事が多いが、彼等極貧者の食事には斯かる贅沢は許されず、何れか一方だけ備えられるのが精々である。淡い汁物は内地の味噌汁、澄まし汁に該当し、高度も略略それ位である。味噌汁または醤油で調味した汁に、大豆、もやし又は其の他の野菜若布等の実を入れるのを普通とする。上階層の例外的に生活のよい者は、生魚、獣肉等を入れる事もあるが、之は極く稀である。下階層土幕民は一般に淡い汁物を用い得ず、少量で間に合う鹹い濃い汁物を それも時たまにしか攝り得ない者が少なくない。濃い汁物は前者の二
倍乃至三倍の濃度と鹹さを有し、味噌、唐辛子味噌、稀には小蝦の塩辛で調味した汁に、大豆もやし、豆腐、或いは野菜類の実を入れるのを普通とする。下階層土幕民中には、味噌を溶いただけの 実の入っていない汁物を用いる者が少なくない。
以上を要するに、汁物は上は富有階級より下は土幕民の如き極貧階級に至る迄、日常の食膳に供せられる事 内地に於ける味噌汁と同様であるが、名こそ同じ汁物なれ、その内容に於いては雲泥の差があり、殊に下階層土幕民に於いては、実も調味料も入らない単なる味噌の溶液に過ぎない程度の物さえある。

(漬物)
朝鮮_人各階級を通じての共通の副食物たる事、土幕民に於いては それ相応に略式化されたこと、汁物と同様である。
時節の関係上、本調査時に見たのは 殆んど総て一夜漬けで、塩、唐辛子、稀にはさらに小蝦の塩辛で調味した基汁に大根、菜葉、或は胡瓜等を適宜に切って漬け、一、二日の跡に食用に供する。下階層土幕民中には調味料なく、唯 塩水に菜っ葉を浮かべた程度の物が稀でない。
(唐辛子味噌)
汁物等の調味料にする事、上述の如くであるが、其の儘で副食物とする事も多い。中流以上の生活者は勿論 如何なる貧困者でも自家で之を醸造し、日常の調味料 副食物に供するのを常とするが、土幕民には斯かる常備食品すら有しない者が多い。
(乾明太)
明太魚を唯 天日に乾した物で、朝鮮の山間僻地に至るまで普く用いられる最も安価な動物性食品である。汁物の実に、煮しめに、その他用途が頗る広い。土幕民には斯かる安価な乾魚すら攝り得ない者が半数以上を占める。
(小蝦の塩辛)
乾明太と同様、広く用いられる。漬物、汁物の調味に、或は そのまま食用に供せられる。
(野菜類)
大豆もやし、菜っ葉、大根、胡瓜を筆頭に、其の他 萵苣、甘藍、春菊、食葵、馬鈴薯等時節物が挙げられる。中にも大豆もやしは、汁物の実に和え物に一般に広く用いられる物である。
(醤油)
朝鮮では大抵自家で醸造するが、土幕民は大多数醸造し得ず 必要に応じて 少量宛 買って使用して居た。内地の醤油に比して塩分多く、味も遥かに劣る。調味料たる醤油を 殊更に副食物の蘭に挙げたのは、土幕民中には、之だけを副食物とする場合が往々あったからである。
それより更に甚だしいのは、副食物としては他に何もなく、只塩に唐辛子粉を混ぜた物と麦飯だけで食事して居る例すら、調査に当たって、二三目睹したのである。
三例を通じて、動物性蛋白質の欠乏が著しく、下階層に於いては、味噌、豆腐の如き安価な植物性蛋白質さえ不十分である。
各階層を通じて、脂肪も甚だしく不足している。
栄養は食物総熱量の他に、食物中の含水炭素、蛋白質、脂肪その他の栄養素の組成如何に支配されることは栄養学上の定説であるが斯かる見地よりすれば、第76表に示すが如き土幕民の副食物中の蛋白質、脂肪の一般的欠乏から、彼らの食物が、栄養学的に不完全であると結論して差しつかえないと思はれる。土幕民の食生活は以上述べた如く惨めな状態にあり、他との比較は対象の性質上困難であるが、単に献立について見るならば、斯かる貧弱な献立は内地の如何なる極貧者の調査報告にも その類例を見出し得ない。