波の伊八

江戸時代、「波を彫らせたら天下一品」とうたわれた名彫刻師がいました。
その名は｢波の伊八｣といい、厚彫りで躍動感のある波と龍の彫刻を得意としました。
作品は遠近法や陰影法がうまく取り入れられており、他の彫刻師の作品にはない迫力が伝わってきます。

波の伊八と呼ばれた男 初代伊八こと武志伊八郎信由は宝暦元(一七五一)年、鴨川市の打墨にある、武志家に生まれました。武志家は代々名主や戸主を務めた古くからの家柄で、八歳の時に父が亡くなり、幼くして九代目頭目となった伊八は手先が器用なことから、名工・左甚五郎の流れを汲む島村流の島村丈右衛門貞亮の弟子となり、技術を磨いたとされています。二十一歳の時にはもう彫物大工として名を連ねていることからも、その非凡な才能がうかがえます。

中でも波をモチーフにした作品は、その鋭い観察眼と表現力が作品に生かされ、彼の代名詞となりました。あまりの波の彫刻の出来映えに「波の伊八」の名は当時の関西の職人からも「関東に行ったら波を彫るな」と言われるほどでした。



欄間彫刻「波に宝蛛」・行元寺

客殿の欄間には、初代伊八の代表作といわれる欄間彫刻五面があります。当時伊八は行元寺よりこの欄間彫刻を依頼されてからしばらく仕事をしなかったため、寺院側をやきもきさせていました。が、ある日突然、馬を借りて太東の海まで行き、馬で海に入って波を観察し、その足で帰るとすぐに仕事に取り掛かって、一気に彫り上げてしまったというエピソードが伝えられています。


欄間彫刻「天狗と牛若丸」・蛎縄寺

寺に伝わる義経伝説の繋がりからか、鞍馬山で牛若丸が大天狗より巻き物を伝授される一シーンが彫られたものです。怖い顔をした大天狗から秘伝の巻物を受け取る牛若丸の様平が実にいきいきとした表情で彫り上げられています。高さ一メートル、横四メートルの厚いケヤキの一枚板に十年もの年月を費やして彫られた大作です。

「波と飛龍」・飯縄寺

「天狗と牛若丸」の左右にあるのは、伊八の得意とする波と龍が彫られた「波と飛龍」。
初代伊八の特徴のある翼を持った龍が浮き彫りで表現されており、眼光鋭く、今にも動いて飛び出してきそうな迫力です。

「波に宝珠」は、ダイナミックな外房の波の一瞬をとらえた見事な作品で、かの葛飾北斎の名作「富嶽三十六景・神奈川沖浪裏」に影響をあたえたのではないかといわれています。

初代伊八が七十三歳で亡くなった後、伊八の技術を継ぐ彫刻師は江戸中期から昭和まで五代続き、千葉県南部を中心に関東一円に及び欄間彫刻や像を彫り続けたのです。

参考文献：近所で配ってたチラシ
※初代のじゃない彫刻も混じってるかもしれない