岡目八目 12/25/03
自閉症の子供について一番心配しているのは、まさしくその親だ。
ところが愛情が強いからと云って、その子供のことを一番良く知っている事とは違う。
もし、親が自閉症の事を一番理解出来ていたなら、皆こんなに困らない。
身近にいても毎日が謎の中で生活しているのだ。
違うと言う人が居るなら少し考えてほしい。
今までいったい何組の自閉症の子供を持つ親がいたのだろう。
過去に遡れば何億組かもしれない。
ところが、自閉症の謎を解き明かした親は未だにいない。
エリーの母親の例があるが、これは日常を丁寧に書き表したもので、謎を解く物ではない。
家族にとっても、自閉症は謎のままなのだ。
もちろん研究者にとっても、謎を解く課程のはずだ。
岡目八目とは良く言った物で、自閉症のレポートを見ていても、或いは専門書を見ても、
私には「当然」とか、「なんで分かんないのか」と思うことがある。
まあ、これも自閉症特有の「自分が考えたことがすべて」の世界ではあるのだが、
ちょっとここで例を挙げてみよう。
1.「おばあちゃんじゃないよ」
品川あたりに住む女性。30過ぎのカナー型の息子の面倒を見ながら逞しく生活している。
息子を交え記者と話すうちに、ふと「こんなおばあちゃんだから」とつぶやくと、
息子はすかさず「おかあさんは、おばあちゃんじゃあ無いよ」と答える。
母親は「まぁ嬉しい。まだまだおばあちゃんにはなれないか。」と喜ぶ。
このやりとりこそ、私たち自閉症のかすかな生きる術となるやりとりで、
同様のやりとりは、まさしく私や妻にもあり、時には周りの爆笑を誘う。
でも本当は、「お母さんはお祖母ちゃんでは無い」という事実関係を言っただけのはずなんだ。
2.とびらのこだわり
授産施設に通う20代の男性。取材陣が自宅で取材中、障子の開け閉めを始め
いつまでたっても部屋から出てこなくなった。
ナレーションは戸の開け閉めにこだわりがある。なーんて言ってたが、違うだろう。
彼は部屋から出るときに、本当に一瞬目の隅でこちらを見ている。
部屋から出るときに、廊下の先に誰かが居るのが嫌なんだ。
だから、障子を開けて出ようとしているのに、廊下の先にカメラがいる。
しょうがないから、もう一度やり直す。何度も繰り返しているうち、
取材カメラがようやく視界から外れ、彼もやっと出てきた。
まったく、それぐらい分かってやれよ、取材してるなら。
少しは自閉症を勉強したんだろう?
3.ntvスーパーテレビ(多分)
カナー型の少年の話。父親は医師でその子供の日常を追う。
ティーチプログラムを利用して生活の改善を進めている。
ある日、初めての買い物に挑戦。
なんとか買う物は手にしたが、お金を払う段で足踏み。
そりゃそうだ。
事前に作った写真はおばさんが写っているのに、カウンターには男の店員。
ティーチとはいえ、未来を完全に予測するのは難しい。
その精度を上げるのは、一にも二にも現場の人たちの細かい積み重ねだ。
4.「ドナルドのミルク」(P310 自閉症の謎を解き明かす「東京書籍」 ウタ・フリス)
ある日、ドナルドは自閉症児学校からの帰りがいつもより遅れたため、
いくぶんろうばい気味で帰宅しました。
両親は、自分で飲み物を取りに彼を台所にやりました。
その後すぐに、お父さんはドナルドの様子を見に行きました。
それは、ちょうどドナルドが流し台にミルクを流しているときでした。
当然、お父さんは彼に止めろと怒鳴りました。何リットルも入る容器から流されるミルクは、
安いものではありません。
お父さんは、これをその日のドナルドの内面的混乱のある種の異様な現れだと考えました。
ドナルドは、叱られると気を完全に動転させ、床にひっくり返り泣きだしました。
心の理論に基づく解釈はこうなります。ドナルドは、ミルクの味が悪くなっていると感じた。
「ドナルドがミルクの味が悪くなっていると感じたから流し台に捨てた」 本当か?私はこう考えます。
ドナルドはかつて古くなったミルクは捨てる物だと学習したはずだ。
だからドナルドはいつもより帰りが遅れた為、飲むべきミルクが、飲む時間より「古く」なってしまった。
「古くなったミルクは飲んではいけません」「おなかを壊すといけないから捨てましょう」。
ドナルドは言いつけに忠実に「古くなったミルク」を捨てることにした。
これらが本当かどうかは、本人たちに聞いて見なきゃ解らない。 お後がよろしいようで。
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