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臨時 vol 12 「「私的臍帯血バンク」と倫理性」&「「私的臍帯血バンク」についての公開質問状」

2009年1月24日発行

■□ 「私的臍帯血バンク」と倫理性 □■

■□ 「私的臍帯血バンク」についての公開質問状 □■
    厚生労働大臣 舛添要一殿
    日本さい帯血バンクネットワーク会長 中林正雄殿
    日本造血細胞移植学会理事長 小寺良尚殿

               日本造血細胞移植学会 会員
                 同・在り方委員会 委員
                   平岡 諦

■□ 「私的臍帯血バンク」と倫理性 □■

 わが子の臍帯血を凍結保存する親の気持ちは、わが子を失った親がわが子の細胞一部を凍結保存するのに似ている。クローン技術の開発を心待ちしながら、可愛いクローンわが子をこの手に抱きたい一心で、かたや、再生医療技術の開発を心待ちしながら、万一のわが子の難病治療を思いながら。この希望を叶えるため、「私的臍帯血バンク」はこの世に発生した。しかし、そこには他人の子を思う心は微塵もない。一方、「移植を希望する全ての患者に公平かつ適正に移植医療を提供するためには、社会が相互に助け合う必要がある」、この理念を持って生まれたのが公的臍帯血バンク・日本さい帯血バンクネットワークである。

 日本の医療は、国民すべてが等しく医療の恩恵を受けられるように「国民皆保険制度」により運営されている。わが子のみを思う「私的臍帯血バンク」で保存された臍帯血による医療は、保存の時点ですでに「国民皆保険制度」の理念には相反するものである。したがって、臍帯血の保存料はもとより、保存された臍帯血による医療の費用も当然のことながら自費になる。保存料と共に治療費の出せる国民のみが恩恵を受けられる医療である。

 医療費抑制策のため、「収入による医療格差」が問題になっている。たとえば、健康保険の本人負担分の引き上げなどにより、生活保護を受給はしていないが低所得者の層にとっては、十分な医療サービスが受けられなくなりつつある。この様な時代に、金を持てるものだけのための医療は、生命倫理からみて上等なもの
ではない。

 私的臍帯血バンクができた当初、日本さい帯血バンクネットワークからは警告文、日本造血細胞移植学会からは声明文が出され(平成14年)、安全性、実効性、営利性が問題にされた。この様な事態を受けて厚労省は「臍帯血移植の安全性の確保について」を出して、安全・有効に実施することの周知徹底を指示した。日本産婦人科医会報でも「臍帯血の私的保存に注意」を促した。その後の進歩で安全性については余り問題視されることはなくなり、また、実効性についても再生医療技術の発展で近未来に望める可能性が出てきた。問題として残るのは営利性である。

 臍帯血保存料はどれくらいかかるのであろうか。臍帯血バンクの一つである株式会社ステムセル研究所のホームページに掲載されている契約料金は、分離費用147,000円、10年間の保管費用73,500円、10年後の更新料73,500円となっている。企業として当然ながら利益を求める。保存臍帯血数を増やすほどに利益が大きくなる。その為には宣伝活動が必要である。設立当初に出された警告文、声明文はいまだ有効であるので、特に企業の信用度の宣伝が重要となる。同社のホームページには、同社が主催した講演会の講師として、日本さい帯血バンクネットワークの会長および副会長の名前が掲載されている。この肩書きをホームページに掲載することが会社としては重要なのであろう。全く理念の相反する私的臍帯血バンクの宣伝に、公的臍帯血バンクの会長および副会長の肩書きが利用されていることになる。両氏にとっては同社が主催する講演会の講師となるときに既に、肩書きが宣伝に利用されるであろうことは十分わかっていたことであろう。この肩書きを持つ両人の職業倫理性が問われる点であり、臍帯血を提供したボランティアはじめネットワーク関係者の志気に影響をあたえないか心配である。

 平成14年に出された警告文や声明文の内容は、まもなく時代にあったものに変更されていくであろう。しかし、「国民皆保険制度」の理念に反し、企業としての営利性につらぬかれた「私的臍帯血バンク」の取り扱いについては、慎重の上にも慎重になる必要がある。

 以上、「私的臍帯血バンク」と倫理性の問題につき検討した。

■□ 「私的臍帯血バンク」についての公開質問状 □■

 平成21年1月17日、私的臍帯血バンクの一つである株式会社ステムセル研究所主催で、Kruzberg博士による臍帯血移植に関する講演会が開催されました。時間は臍帯血移植を含む造血細胞移植に関する6つの厚労省関連の班会議の第1日目昼食時間が利用されました。座長は加藤俊一氏でした。加藤俊一氏は厚労省科学研究「臍帯血を用いる造血幹細胞移植技術の高度化と安全性確保に関する研究」の研究代表者であり、日本さい帯血バンクネットワークの副会長であり、日本造血細胞移植学会の理事を務める、一般国民にも知名度の高い先生であります。本講演会の案内状はステムセル研究所より送られてまいりました。演者のみならず座長の顔写真を含むものでした。

 私は日本造血細胞移植学会(以下、学会)の会員であり、在り方委員会の委員を委嘱されています。学会は、数年前から私的臍帯血バンクとは一線を画して活動するべきとの見解を取ってきました。平成20年10月11日に行われた在り方委員会においてこの点が議論され、「私的臍帯血バンクの基本にある営利性と本学会の非営利性とは本質的になじまない」ものであること、また「種々の宣伝活動に利用される可能性」等が問題点としてあげられ、これまでの見解が再確認されています。

 講演会の案内状を受け取った時点で加藤俊一理事が座長を行うことにつき問題ありと考え、在り方委員会委員長及び小寺良尚学会理事長にメールを送りました。その回答書が1月16日にメールで送られてまいりましたが、その内容は、平成20年10月11日の在り方委員会の議事内容に則ったもので、私的臍帯血バンク主催の講演会の座長を加藤俊一理事が行うことに遺憾の意を表したものでした。この回答書は加藤俊一理事にも送られたとのことですが、私的臍帯血バンク主催の講演会が加藤俊一学会理事の座長のもとで予定通りに開催されてしまいました。

 日本さい帯血バンクネットワーク(以下、ネットワーク)においては、そのホームページ上に、私的臍帯血バンクに対する警告文を出しています。ネットワークにおかれても学会と同様に、私的臍帯血バンクとは一線を画したものとの認識であると思われます。しかしながら、上述のように私的臍帯血バンク主催の講演会が加藤俊一ネットワーク副会長の座長のもとで開催されてしまいました。

 厚生労働省におかれましては、一般国民の臍帯血移植医療の臨床および研究の促進のため、日本さい帯血バンクネットワーク、および加藤俊一氏を研究代表者とする班研究を通じて、それぞれ多額の税金を交付しているものと考えます。

 私的臍帯血バンク主催の講演会が、学会理事長・ネットワーク副会長・厚生労働省班会議班長を務める加藤俊一氏の座長のもと、臍帯血移植を含む厚生労働省6班の合同班会議の昼食時間を利用して行われたことは、公的臍帯血バンクであるネットワークと私的臍帯血バンクとの関連について、一般国民に対して誤解を生じる恐れがあります。

 また、株式会社ステムセル研究所のホームページには、同社主催の講演会の演者として、ネットワークの現・会長 中林正雄氏、および副会長 加藤俊一氏の名前が既に掲載されています。これをみた一般国民に対して誤解を生じる恐れがあります。

 そこで以下の3点につき質問します。

1;公的臍帯血バンクである日本さい帯血バンクネットワークと、私的臍帯血バンクとの関連について、どの様にお考えでしょうか。

2;学会理事長・ネットワーク副会長・厚生労働省班会議班長を務める加藤俊一氏が、私的臍帯血バンク主催の講演会の座長を行ったことについて、どの様にお考えでしょうか。

3;ネットワーク現・会長の肩書きを持つ中林正雄氏の名前、ネットワーク副会長・学会理事長・厚生労働省班研究代表者の肩書きを持つ加藤俊一氏の名前が、株式会社ステムセル研究所のホームページに掲載されていることについて、どの様にお考えでしょうか。

 平成21年2月5日・6日には日本造血細胞移植学会の年次学術集会開催が予定されており、一般国民が注目しています。以上の3点につき、年次学術集会に合わせて一般国民に公表されることを要望します。

以上。

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