李栄薫教授「韓国の暴力的民族主義が歴史論争を封殺」
李栄薫ソウル大教授インタビュー
「韓国人の歴史意識は観念的かつ道徳的であり、見解の異なる者との対立を自ら望む傾向にある。また政治指導者らは、大韓民国が何かの間違いで建国された国だと考えているようだ。金大中(キム・デジュン)政権が第2建国委員会を発足させたことや、盧武鉉(ノ・ムヒョン)大統領が韓国近現代史を“正義が敗北し、機会主義がはびこった”時代と規定したことだけを見てもそれは明らかだ。こうした間違った歴史意識は社会や国家を分裂させ、韓国の先進国入りを難しくしている」
ソウル大経済学部の李栄薫(イ・ヨンフン)教授(56)は、今週出版される『大韓民国の話』(キパラン出版社)を通じて再び口を開き、序文にこう記した。
「いつからか文章を書く際に自分で検閲をするようになった。だが、真の検閲者は韓国の暴力的民族主義だ。これにやられた人は、謝罪や引退、または逃亡に追い込まれるほかない」
李栄薫教授は大学の中だけで過ごしてきた「書生」だった。その教授が2004年にテレビ討論に出演したところ、世論の集中砲火を浴びた。「慰安婦動員に協力した(韓国人の)民間人らの責任も追及すべき」と主張したつもりが、「日本軍性奴隷は公娼制度の一形態だった」と主張したかのように伝えられたためだ。
また昨年12月に「教科書フォーラム」が開催した韓国近現代史「代案教科書」セミナーでは、4・19革命(1960年に不正選挙の結果を不服とした民衆デモにより、当時独裁体制を敷いていた李承晩〈イ・スンマン〉大統領が下野した事件)顕彰団体の会員らに胸ぐらをつかまれたこともあった。
だが、なぜ李栄薫教授は、こうした屈辱を受けながらも再び立ち上がったのだろうか。28日午後、記者は教授の元を訪れ、その理由を尋ねてみたところ、教授は「昨年初めに出版された『解放前後史の再認識』の編集にかかわりながら、韓国社会の中産層がこれまでの50年間、民族や民衆、階級などといった日常生活とは何の関係もない歴史からどれだけ苦しめられたのかを痛感した。そこで、こうした状況を何とかしたいと思い、自由と信頼、法治の文明精神に基づいて書かれた新たな歴史を示そうと考えたことがきっかけになった」と答えた。

クリスティン・リー氏の著作「滅亡の帝国-日本の朝鮮半島支配」は、
欧米の研究書の間で話題を呼んだ。
クリスティン・リー氏の経歴
アメリカ・ポートランド州立大学教授。
1960年生まれ・梨花女子大卒業後
アメリカに留学、ラトガ-ス大学で博士号取得。
教育学を専攻後、教育哲学に転向した。
現代思想が専門。ポストモダ二ズムや日韓の女性法などについて、
多数の論文を書いている。
「搾取と抑圧の下、ひたすら犠牲を強いられた暗黒の36年」という植民地史観が、
今なお韓国では根強い。
それどころか、決して疑義を差し挟んではならない、絶対の真実にすらなっている。
だが、日本の植民地経営は世界史的にみてどうだったのか。
コロニアリズムというキーワードをもとに、理論的、実践的にこの問題に取り組んだのが、
在米の韓国人女性研究者、クリスティン・リー氏である。
リー氏はイデオロギーに振り回され、学問的方法論に依らないこれまでの研究を厳しく
批判する。
(翻訳/重村智計・拓殖大学教授)
私は、アメリカの大学院で指導教授たちに言われた次の言葉を、今なお忘れることが
出来ません。
「日本の植民地は、その後いずれも経済発展したではないか。そんな結論の出ている
問題を今更どうして研究するのか?」
米国の名門ラトガース大学のダン・ローデン教授は、私が博士論文の主題
について日本が朝鮮半島を植民地支配した時代の教育と女性問題について
研究したいとの計画を説明すると、このように反問しました。
「文明のシステムを、日本の植民地主義は朝鮮半島に導入したのではないか。
スペインやアメリカ、イギリスは日本のように本国と同じような教育システムを、
植民地に導入しようとはしなかった。
当時の朝鮮半島の人々は、文明のシステムを独自の力で導入するのに失敗した。
日本の植民地主義を経ずに、あれほど早く文明の世界システムに入れただろうか?」
私は、この発言に怒りが込み上げ懸命に反論しようとしたが、頭の中が真っ白になり
感情だけが高ぶったのを覚えています。
そんな論文を書いたら、韓国に戻れなくなる!との不安が一瞬心をよぎりました。
論文の相談をした別の経済学専攻の教授は、
「植民地化された国家の中で韓国と台湾ほどに発展した国家はない。
アメリカやイキリスの植民地で、台湾や韓国ほど発展した国があるか?」
とまで言うのでした。
私の不満そうな表情を見たローデン教授は、次のようにも問いかけました。
「日本の植民地支配を非難する韓国人の留学生の一人が、自分の父親が
東京帝国大学出身であると自慢げに話した。
これは、暗黙のうちに日本が導入した文明のシステムを評価していることになる。
本来なら、東京帝大を卒業した父親を非難すべきではないか?」
こう言われてみると、確かに東京大学はもとより、京都大学、早稲田大学、慶応大学を
卒業したことを誇りにする韓国人は少なくないのです。
当然韓国の側に立ってくれると思った第三者のアメリカ人学者の発言は、ショックでした。
こうして私は1997年に『The Doomed Empire:Japan in ColonialKorea』
(滅亡の帝国:日本の朝鮮半島支配)を、英国で出版しました。
日本の植民地支配下での女性と教育問題を、学問的に整理し、感情論でなく客観的に
理解する素材を提供したいと考えたからです。
当初の意図とは異なり、指導教授の理諭と主張が盛り込まれました。
この本は、韓国で出版するのは、まず不可能でしょう。
また、日本で出版しても誤解を受け、韓国では「親日派」と非難されかねません。
韓国で生活できなくなるかもしれません。
それをあえて覚悟したのは、近代史をめぐる日韓の対立を解消し、友好な関係を築くのに
微力ながら貢献したいと考えたからです。
政治や経済などの他の分野はともかく、女性解放と女性教育の面では、日本の
コロニアリズムは朝鮮半島への近代化の導入に決定的な役割を果たしました。
その一方で、韓国の教育が日本の戦前型の教育から、今も抜け出せないで
いるのも否定できない現実です。
