千早振る日々 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-01-30

話してきました

前の記事はこちらです。

頭のいい人の、無邪気さと傲慢さのあいだ - 千早振る日々

無事に発表が終わってから、先日のエントリについての話を、例の学生に一対一でしてきました。

コメントをたくさんありがとうございました。おかげさまで、参考にしてちゃんと話ができました。

言い訳がましくなりますが、みなさまのブックマークコメントを読ませていただいた補足もかねて、もう少し書こうと思います*1


まず最初に書いておきたいのは、その学生を妬んで足を引っ張ろうとしているわけではないということです。私も決して明日が保証されている身分ではありませんが、学生を引っ張ってどうこうしようというほど余裕がなくはありません(ボスのおかげです)。

チームで研究をして、困っている人は助け、より大きな成果をあげようという方針*2の中、その学生が修士課程の間に論文を出し、特別研究員になれるのは素直にうれしかったです。これで、一緒にやれる仲間が増えるわけですから。

しかしだからこそ、特別研究員としてチームをひっぱっていく立場になる自覚をもってほしかった。

難しくて、贅沢な注文だったのかもしれないけれども。


前にちゃんと書いていませんでしたが、練習は、修士を終える四人で時間などを調節するように任されていました。毎年そのようにして特に何事もなくうまくいっていたからです。きちんと話をすべきだよ、と助教の先生や私はしつこく言ったのですが、結局ばらばらのまま。それでも、来るとしっかり見てしまいます。これがよくなかった。ばらばらならやらないよ、くらい言うべきでした。

投稿論文などに比べれば、修論は内輪のことであり、研究室としては優先順位が低い。特に博士課程に進む学生にはそうです。先輩に個人的に見てもらったうえで、1回できれば御の字、ということは伝えてありました。上に行く学生には奨学金免除がかかっていますが、全員がもらえるわけではないし、これで研究生活を終えるからこそ大事な発表になる他の二人と、なるべく公平にしたかった。

しかし、腹を立てるくらいなら見る側としてもっと早く介入しておくべきだったのはその通りで、その点は反省していると伝えました。学生も、「同学年での意思の疎通がもっと必要だったけど、自分のことで余裕がなかった」と話しており、このことについてはみんなで来年以降に生かせるようしっかり話すことになりました。

学生がそのついでに話していたのが、「ちょっとずるかったかもしれないが、できそうなのでやろうと思った」ということ。確かに、準備が遅い他の学生二人が一回目の練習をやったのはその前の日。一日で直せないだろうから、という読みがあったようです。

さらっと「ずるかったかも」と認められたことで、自分の心の狭さが身にしみました。そういう状況にしてしまったのは、自分なのでした。

さらには、コメントにもあった、その学生の育ちに関することも聞いてみました。これまで話してきた感じから推測はできましたが、「いままで居た環境で、自分が「他人よりできる」と思ったことはないんじゃない?」と聞くと、全くない、と。今でもできないできないと思っていると。

すごいと思いました。こういう人こそ、大学はそういう居心地の良い場所であるべきだ。

だから、なるべくこのまま行ってほしい。妬みや衝突で、方向を見失わないように進んでほしい。


だからこそ、そのうえで、一人の先輩として話したのが、次のことです。

人を思いやれというのでも、空気を読めというのでもなく、単に少しもったいないなぁと思う。人より抜きん出ていることは妬みを引き起こさずにはいない。少し自分のものを周りに与えてしまうくらいの気持ちを持つとか、周囲に気を配っているフリ(というと言い方は悪いけど)を覚えたほうがいい。

これは、押しの強さでは随一のボスが日頃「バカなフリができないとだめだ」と言っていることにも通じます。周囲を納得させて、自分も自分のやりたいことをやる。そのためには、純粋に「自分はできないからもっとやる」と突き進むだけではなくて、「できる」と見られていることを自覚して、気を配ることが必要ではないか。

日本的と言えば言えます。ただ、そういういわゆる政治力(これも言い方が悪いですが)みたいなものがあれば、もっと上に行けるし、もっと好きなことができると思うのです。この学生がボスだとかそういう存在になろうとは思っていなくて、生涯一研究者でいいやと思っていたとしても、やっぱりある程度うまく周囲に説明しながらやる方法とか、周囲を巻き込む方法とか、が必要でしょう。

特にこれからは、研究者どうし一人一人で足をひっぱりあってもしょうがない。どれだけ、協調して科学の面白さをわかってもらって、お金を得て、好きなことをするか。そのためには、身につけておいた方がいい知恵というのもあると思うのです。押しの強さとのバランスはとても難しいですが。

偉そうで、きれいごとに聞こえるかもしれない。ただ、ポスドク問題やらますます研究者業界が息苦しくなる中で、せめて研究室でくらい、団結してことにあたりたいのです。おかげさまで、これからも、もう一人心強い仲間を加えて、やっていけそうな気がしています。もちろん、後輩とともにやっていく自分の役割と行動が大切なのも、自覚しておきたいです。

*1:これまでこのブログは「だ」「である」体で書いてきましたが、いろいろなコメントをくださった方へのお返事だと思って、「です」「ます」体で書いてみます

*2:この特殊さが、少々話をややこしくしたことは否めません

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