2009-01-30
ポスドク問題について思う
Leica M7, 50mm Summilux F1.4, RDPIII @Grand Canyon National Park, AZ
休載宣言以来、案の定ほとんど書けていませんが、なんというか日本の学位取得者について考えさせられるメールが来て、ちょっとだけ。
ポスドク*1問題というのが日本ではかなり深刻だという話をたまに聞いたり、見たりするのですが、なんというかちょっと不思議に思っています。
どうも騒がれていることの本質は、学位をとっても研究職、特に大学や公的研究機関に就ける人が少ないということのようです(もし私の理解が間違っていたらごめんなさい。その場合、以下は読む必要ないです)。
しかし、それは本当に問題なのでしょうか。アメリカのトップスクールのようにセレクティブで、どのPh.D.プログラムでも10人ぐらいしかとらないようなところでも(一つのプログラムで学位を取るのはそのうち5-6人/年)*2、最終的に大学のファカルティになるのなんて2割もいるかどうか。それ以外の人は当たり前のように民間に出て行きます。
まして、日本のように「大量生産」していれば、ファカルティには1割ぐらいしかなれない、適切なポスドク職を探すのも困難なのは当たり前なのではないでしょうか。ほとんどロースクール*3卒業生と同じ問題のように聞こえます。
大量生産、ということについてですが、例えば、アメリカで最大級のPh.D.養成機関の一つであるHarvardで、理系文系など学問分野を問わず生み出されるPh.D.は年間約540人(この資料のp.11)、同じくかなり大きな大学であり、学生一人当たりの運用資金全米一を誇るYaleで360人にすぎません。Berkeley, Stanford辺りがPh.D.産出パワーで(笑)ここに並ぶクラスだと思いますが、ほとんどの大学はそれほど大きなプログラムがある訳ではないので、そこまで生み出すことは出来ない。
一方、日本では、東大だけで年間1100人以上(米国には事実上存在しない論文博士180人を除く)、京大が年500人強、全国ではちょっと古い資料でも年16000人!、妙に数字が多い保健分野を除いても年9000人も生み出されている。そもそも個々の大学の基礎的な実力、体力*4としてこんなに生み出せるはずがないと思うのに加え、総数としても人口比アメリカの2.4分の1しかないことを考えれば、かなり多いことは自明。
しかも、アメリカは世界レベルのアウトプットを出す、それなりの研究を行う有力大学だけで数十あり、それぞれがかなりのラボの数を持ちますから*5、ポジションははるかに多い。なお、日本のような講座制をとっていないので、一度assistantであろうがprofessorになってしまえば、アメリカでは原則PI(principal investigator:ラボの長)です。それでもPh.D.の大多数は結局ファカルティにはならない訳です。
ちゃんと研究を行う大学の数も、大学辺りのラボも少ない日本でこれだけ博士号を生み出せば、より結果が強烈になるのは当たり前なのに、その程度の算数も出来ない人が、日本では大学院に行くのでしょうか。しかもいくつかのエントリで考察した通り、英語の問題があって、ドイツ人などヨーロッパの学位取得者のようには、自由に海外の研究職も探せないということであれば、もう吸収先がないのは当たり前。
ということで、もし上で私が書いたことが、本当に騒がれていることの中心であるとすると、まったくもって解せません。当然のことを当然だと思えない、ある種のimmaturity課題がそこにはあるのではないかと思うのですが、これは下衆(げす)の勘ぐりなのでしょうか?
大学に行けば、あるいは大学院に行って学位を取れば関連する仕事があると思っているのは、途上国を除けば、日本人だけなのではないかと僕は思います。そう、それは明治、日清、日露戦争時代のスキームなのです。
暴論でしょうか? 僕は、一歩日本を出れば、これが世界標準の考えに近いと思いますが、、、。
追伸:コメントを拝見し、続きのエントリを書きました。そちらもご関心があればどうぞ。
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*1:postdoctoral fellow/associate: 博士号を取得してその後、独り立ちするまで、更に、多くの場合、別のラボに行って研究している人
*2:ファンディングのリソースの大きさと、ファカルティの数によって大体規模は決まります。僕がいたプログラムが典型的なものの一つだと思いますが、学生は毎年10人しかとっていません
*3:法科大学院
*5:私のプログラムの場合、学生年10人に対し、参加するファカルティ(つまり選択可能なラボ数)が90ほど当時ありましたが、ちょっと日本ではなかなか考えがたいことです
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