メディカルスクールで「早急に検討会を」
【第47回】山崎學さん(日本精神科病院協会副会長)
一昨年夏、日本精神科病院協会などでつくる四病院団体協議会の総合部会で、メディカルスクール検討委員会の設立を提唱した日精協の山崎學副会長。その後は同検討委の委員長として報告書の作成に尽力し、今年1月22日、念願だった報告書発表会の開催にこぎ着けた。
「厚生労働省と文部科学省、それに現場の人間が加わった合同検討会の設置が早急に必要だ」と訴える山崎副会長に、日本版メディカルスクールの創設に向けた今後の方向性などについて聞いた。(敦賀陽平)
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医師増員、医療者はどう考える?―なぜメディカルスクール構想を提唱しようと考えたのですか。
従来の6年制というのは、高校時の評定平均値(成績)が(5段階で)4.0前後の生徒じゃないと医学部に入れない。偏差値偏重みたいな形で医者をつくってきた。それが果たして良いのかというと、実際は医療崩壊を招いた一因になっているような気がするんですね。
高校卒業時に確固たる信念を持って「医者になるぞ!」という子どもは、そんなに多くないような気がします。親に「医者になれ」と言われたり、学校の先生に「お前、この偏差値なら医学部に行けるから」みたいなことを言われたり…。その一方で、研修医の1割ぐらいがうつ状態だという報告もあります。全部が全部そうだとは思いませんが、単に偏差値が高いだけで医者という道を選択している気がするんですね。もう少し常識があって、はっきりとしたモチベーションのある人が医師になった方がよいのではないかと感じていました。
個人の素質の問題かもしれませんが、素質と教育の両方が関係している気もします。また、コミュニケーションがうまく取れないのに、偏差値が高いから医学部に入ってしまう学生もいるように思います。本来、医者はコミュニケーションスキルが大切なはずなのに、そこが十分ではない人が医者になると、患者も大変です。だから実感として、もう少し違う形の教育制度というのがあっていいと思ったんです。
―四病協の検討委は、どのようにして始まったのですか。
一昨年の8月、日精協の方から「メディカルスクールの検討をしたい」と提案しました。その後、各団体の了解を得て検討委がスタートしました。外部の委員には、中田力・新潟大脳研究所統合脳機能研究センター長、福井次矢・聖路加国際病院長、本田宏・済生会栗橋病院副院長、金村政輝・東北大病院総合診療部講師という4人の先生方に入っていただきました。
中田先生は新潟大のほか、米カリフォルニア大でも教鞭(きょうべん)を執っていますから、両方の制度に精通しているということで、中田先生を中心に検討が始まりました。第3回会合では、厚労省の松谷有希雄前医政局長からも話を聞きました。
そのころ、シンガポール政府が300億円を出資して、米デューク大のシンガポール分校をつくったので、中田先生と2人で視察にも出掛けました。以前はシンガポールも、定員250人ほどの6年制の医学部1つしかありませんでした。医師不足の中で、既存の医学部の定員を増やす動きもありましたが、むしろ4年制の新たな医育制度を考えた方がよいということで、政府がデューク大を招聘(しょうへい)したのです。
―報告書の中でも、諸外国のメディカルスクールについて触れていますね。
日本の外を見ると、例えばオーストラリアは既存の医学部の半数以上をメディカルスクールに変えています。また韓国は、近い将来に6年制のすべての医学部をメディカルスクールに変えるそうです。
ただわたしたちは、従来の6年制をいじるつもりはありません。要するに、国が今の医師不足の中で、医者の養成数を5割以上増やすと言っているわけですから、8000人定員のところで4000人増やすことになった場合、その4000人の半分ぐらいをメディカルスクールでやらせてほしいだけです。
―つまり一本化ではなく、並存ということですか。
そうです。ただ並存の場合、6年制と4年制の2つの制度が混在してしまう「ダブルスタンダード」の問題があります。北米に倣えば、4年制の卒業時に医学博士とすべきでしたが、現在も4年制で学士入学できる制度があります。その学生も従来の6年制と同様、卒業した時点では医学士なんですね。だからメディカルスクールも、卒業生に医学士を与えることにすれば、ダブルスタンダードにはならないと思っています。
それから、メディカルスクールという言葉にアレルギーを持つ人がいますが、この名称に別段こだわらなくても、全入制の新しい学士入学制度でも構いません。現在の学士入学制度では、100人の枠に5−10人の学生が3年次に編入されます。だから全員を学士入学で取るという、既存の制度の変形であってもよいと考えています。
―この制度が実現する上で、問題点や課題はありますか。
一番大きな問題は、トレーニングスタッフの研修です。というのは、例えば、現在の医学部の教官がメディカルスクールの教員をできるかといえば、できません。なぜなら、6年制の教育しか体験していないからです。従って、海外の既存のメディカルスクール教育システムを体験してもらい、その後、伝達講習などで教官の養成が必要になります。
あるいは、現在、米国で働いている日本人の先生に教官になってもらうというやり方もあります。デューク大のシンガポール分校でも、米国からのスタッフが入っています。シンガポール分校の教官は現在、90%がシンガポール人ですが、臨床、教育スタッフは米国のデューク大で教育を受けて帰国しています。
―四病協の今後のタイムスケジュールを教えてください。
まず国会議員の先生方に、メディカルスクールについて少しずつご理解いただき、最終的には、やはり厚労省と文科省、そしてわたしたち現場の人間が入った合同検討会をつくる必要があります。年度内は無理かもしれませんが、4月以降の新年度に実現できればと考えています。
更新:2009/01/31 12:00 キャリアブレイン
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