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日本郵政が「かんぽの宿」のオリックス不動産への売却を一時凍結すると表明した。弁護士や公認会計士など外部の専門家による第三者委員会を設けて売却プロセスを洗い直すという。
売却に対する鳩山総務相の「待った」は、根拠が不明確で納得できないが、日本郵政は入札が適正だったというのなら、徹底した調査と結果の公表で、それを証明するしかない。
鳩山発言を受け、国民の間からも売却に疑問の声が出ている。その核心は、購入・建設に2400億円もかかった79施設を109億円で売るのはおかしい、という点だろう。
たしかにこれでは大損だ。しかし、よく考えてみたい。
バブル崩壊後、日本の地価は下がり続けている。事業用の不動産価格は事業の収益性で決まる、というのが今日では常識になっている。ところが、売却施設のうち黒字が出ているのは11だけで、全体では40億〜50億円の赤字が毎年出ている。そのうえ、正規・非正規3200人の従業員の雇用継続にも努めなければならない。
こうした条件のもとで、入札は行われた。となれば、当初の投資価格から大幅に下落するのは避けられないと思われる。しかも、地価が大きく上昇する見込みはなく、売却が遅れれば赤字がそれだけ累積する。
では、どんな価格が適切なのか。専門家の間でも意見が分かれるだろう。だが、公開の入札を行い、いちばん有利な売却条件を落札とするのだから、それが安くても、現状での市場の判断として受け入れる以外にないのではなかろうか。「もっと高く売れる」というなら、そういう買い手を見つけて来るしかない。
これほど巨額の損失を出すことになった責任はどこにあるのか。郵貯や簡保の客から預かったお金を、収益性を無視して施設建設に投じた放漫な官業ビジネスと、そうした施設を選挙区へ誘致してきた政治家こそ責めを負うべきだろう。この点も含め、総務相には問題の全体像を見てほしい。
もちろん以上の議論は、入札が適正に行われたことが大前提である。談合のような不正や不適切な事務処理があったなら話は別だ。鳩山氏は昨日の国会答弁で、そのような疑義を口にした。それなら問題点を具体的に示してほしい。担当大臣なのだから、ただ「疑問あり」では済まない。
日本郵政にも注文がある。売却が問題視されてからも、入札についての情報をきちんと出さず、疑念を膨らませる結果になった。経営姿勢が内向きになって経営情報を出し渋り、官業体質へ逆戻りしているように思える。これは経営の求心力低下にもつながっている。この機会に、民間企業としての決意を新たにしてほしい。
韓国に向けた北朝鮮の強硬な言動が、激しくなる一方である。
「政治・軍事的な対決を解消するすべての合意を無効にする」。韓国との関係を統括する祖国平和統一委員会がきのう、そんな声明を出した。
今月17日には、軍部がやはり声明で「全面的な対決態勢に突入する」と宣言したばかりだ。
これらを単なる揺さぶりだと受け流すわけにはいかない。
すでに北朝鮮が止めている韓国政府との対話や交流の中断が長期化するだけでなく、例えば02年に起きた南北海軍同士の砲撃戦のように、朝鮮半島西側の黄海で軍事的な挑発に出る恐れもある。
北朝鮮に言いたい。いたずらに緊張をあおっても、ますます世界からそっぽを向かれ、何の益にもならない。北朝鮮がしなければならないのは、これまで積み上げてきた南北間の合意を尊重し、実行することだ。
きのうの声明は南北関係について、「もはや収拾する方法も、修正する希望もなくなった」と断じた。相も変わらぬ手前勝手な決めつけである。
間もなく就任1年になる韓国の李明博大統領に対し、北朝鮮は「民族の逆賊」などと口をきわめて非難してきた。李政権の北朝鮮政策に対する強いいら立ちの表明だろう。
李大統領は、盧武鉉前政権が北朝鮮に融和的すぎたとし、盛りだくさんの経済協力をうたった07年の南北首脳会談の共同宣言も、「妥当性と国民合意の観点」から見直す構えだ。
北朝鮮はこれを、トップが署名した宣言の完全な無視だとし、メンツの問題とも受け止めている。
さらに先日、核問題の進展と対北経済協力を絡めた新政策の骨格をつくった大学教授を新たに統一相に起用したことも北朝鮮を刺激した。
今回の声明は、北朝鮮への硬い姿勢について韓国内に反対する世論があることを見ての行動でもあるだろう。
まだ発足直後で、北朝鮮政策が具体的に見えてこないオバマ米政権に対して、南北間の緊張を見せつけ、牽制(けんせい)する狙いもある。
南北の関係はいま惨憺(さんたん)たるありさまだ。金剛山観光は昨年の韓国人射殺事件のあと全面的に止まり、古都・開城への観光も中断した。北朝鮮は韓国の資金で操業する開城工業団地から韓国政府の職員を引き揚げさせ、陸路の往来も厳しく制限している。
核問題をめぐる6者協議が停滞し、米朝関係もどう進むか見通せないなかで、北朝鮮は南北関係を進展させるメリットを感じていないのだ。
北朝鮮の言動に乗って韓国内が分裂を深めてはなるまい。李政権は北朝鮮と平和的に共存していく意思をはっきり示し、冷静に対応してもらいたい。