ベトナム・ホーチミン市での政府開発援助(ODA)事業受注をめぐり、大手建設コンサルタント「パシフィックコンサルタンツインターナショナル」(PCI)が不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)の罪に問われた事件で、東京地裁はPCIに罰金七千万円、元役員ら三人に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。不透明さがつきまとうとされてきたODAの闇を司法が指弾した。
東京地裁は、PCI側は円借款に基づいて実施された高速道路建設工事のコンサルタント業務を受注し、元役員らはホーチミン市の担当局長に二〇〇三年に六十万ドル、当時約六千四百万円、〇六年には二十二万ドル、当時約二千六百万円のわいろを贈ったと認めた。
判決は「会社幹部が了承した組織的、計画的な犯行で、国際商取引の公平性を害した上、贈賄額を見込んで契約代金を水増しした。ODA事業への信頼も損ないかねない」と述べた。国民の税金が投入されているODAをわいろに使っていたのは、悪質だ。ただ、判決は担当局長が法外な金額の支払いを執拗(しつよう)に求めたことなどをPCIに有利な事情とした。
今回の事件は、一九九八年の不正競争防止法改正で新設された外国公務員への贈賄禁止規定での初摘発だった。経済発展が著しいベトナムで、日本のODAが大型プロジェクトなどを通して成長を下支えしてきたが、陰で不正な受注工作が横行しているといわれる。常識とされる政府高官へのわいろを野放しにしておくわけにはいかない。
日本政府はベトナムに対し、高官への贈賄事件を理由に新たな円借款を停止し、収賄側の厳正処分と再発防止を迫っている。両国は合同で腐敗防止委員会も立ち上げ、コンサルタントの契約手続き透明化などで一致をみた。汚職体質の一掃へ、日本は毅然(きぜん)とした態度を貫くことが大切だ。
先ごろ、岡山市内であった県内経済団体主催のシンポジウムで「日本が果たす国際貢献」と題して講演した元国連難民高等弁務官の緒方貞子・国際協力機構(JICA)理事長は、日本は食料など他国に依存していることをきちんと認識し、積極的に国際貢献をしていくべきだと訴えた。
ODAは、日本が誇りとする国際貢献である。国民の理解と信頼を高めるためにも、今回の事件を腐敗根絶へ官民が一体となって取り組む契機にしなければならない。
自宅で介護を受けるのが困難な高齢者が暮らす特別養護老人ホームへの入所待機者が少なくとも全国で三十八万二千人に上っていることが、共同通信の調べで明らかとなった。
特養ホームは、二〇〇七年十月時点で、全国に約五千九百施設あり約四十万人が生活している。入所は緊急度や家族環境などを検討して決めるが、定員いっぱいの状態にあり、すぐ入所するのは難しい。需要の高まりに施設整備が追いついていない現状を示しているといえよう。
調査では、県庁所在地だけ集計したり、要介護度の重い人だけを数える自治体もあるため、実際の待機者はもっと多くなりそうだ。待機者のうち自宅待機者は集計した三十六都道県で計十二万三千人に上る。
岡山市の場合、三十八施設の定数二千三百十五床に対し、待機者は六千三百十七人と定数の三倍弱で、五年前の調査より七割増えた。定数と待機者の差は開く一方だ。
特養は、二十四時間ケアが可能で、在宅介護を続けたり、有料老人ホームに入所するのに比べて費用が割安なため、入所希望者が多く、都市部では数年待ちのケースもある。
国は介護保険制度の開始以来、訪問介護や通所介護など在宅サービスを重視してきたが、質や量が十分でなかったことが背景にある。在宅介護に比べ施設介護は経費がかかり、行政は整備に二の足を踏んできた。
しかし、在宅での家族の介護負担は重く、親子や夫婦による老老介護、果ては虐待や殺人など悲惨な事例も出ている。
特養増設を促すとともに、在宅介護を支える施策も充実させねばなるまい。施設介護の比重を高めれば国民負担は一層重くなる。財源をどうするか国民的な議論も必要だ。
(2009年1月30日掲載)