犯罪の被害者本人や遺族が同じ法廷の中で被告と向き合い、じかに言葉を交わす。日本の刑事裁判ではかつてない光景が23日、東京地裁の二つの法廷で展開された。ひとつは恐喝未遂・傷害事件。もうひとつは交通死亡事故をめぐる事件だ。交通死亡事故の法廷の様子は――。
自動車運転過失致死罪に問われている男性被告(66)の初公判。昨年8月、東京都内でトラックで右折するとき、対向車線のオートバイと衝突して男性(当時34)を死なせたとして起訴された。
被害者参加の裁判では、被害者・遺族は検察官側に座る。検察官の横には、男性の兄(35)と付き添いの弁護士が並び、男性の妻(34)がその後列に座った。
被告が罪状認否で起訴事実を認めた後、検察側が冒頭陳述と証拠の説明をした。被告が、事故後に前触れなく遺族のもとを訪れたとき、焼香を断られると、遺族に向かって「2時間もかけて来たのに」と口にしたことも明かされた。
被害者・遺族には被告人質問が認められる。机に両ひじをついて顔を伏せ、怒りをこらえていた様子の兄が、検察官との短い打ち合わせの後、質問に立った。
兄「なぜ事前連絡をしなかったのでしょうか」
被告「断られちゃうと思いまして」
兄「現場で手を合わせたことはありますか」
被告「毎日、車で通っております。赤信号だと止まりますから必ず気持ちでやっております」
兄は、被告の反省や謝罪の姿勢が本物かをただした。
兄「逆に青信号だったらしないんですか」
被告「頭下げる程度で」
兄「あなたが考える誠意とは何なのでしょうか」
被告「んー、ただお線香あげさせて頂いて。謝るしかないです」